バイクがなぜ安定して走るのか、実はわかってない(その2)

「その1」で、50年前の論文、Jones (1970)について触れたのですが、ちゃんと読んでみました(そんなに難しくはなくて、写真も面白いので、興味ある方は、2006年のりプリント版をどうぞ)。この論文では2つ重要なことを言っています。

1) ホイールのジャイロ効果は安定性にはあまり関係ない 
2)トレール(その1の図のc)は正、つまりフォークは「寝ていないと」安定しない

そして、これらを「変な自転車」を自作して自分で乗って試す、という面白いことをしています。

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                                                                         Jones (1970) Fig.1

写真(上)の自転車、前輪が二重になっていますね。これは、1)のジャイロ効果を打ち消すために逆回転するホイールを付けています。ジャイロ効果は右向きと左向きの回転では作用する力が逆向きになるからです。これはまた後で出てきます。Jonesさんは、このヘンテコな自転車を手放しで乗っています。つまり、ジャイロ効果はあるかもしれないけど、小さい(なくても自転車は安定する)、と結論しています。

写真(下)(その1の写真も)は、2)トレール量をめちゃくちゃにしたバイクで、これは不安定すぎて乗れなかったそう。

そもそも、トレールが正だとなぜ安定するのでしょう?これは、タイヤと地面の間に働く摩擦力が、ハンドルを切ったとき(ホイールが進行方向からずれたとき)に、それを元に戻すように働く、からです。この辺の説明は、車やバイク関係のサイトの方がわかりやすく、例えば、

小学生でもわかるホールアライメントの話https://mobilecafe.tokyo/WA2.html

の図をみるとわかると思います。トレール量が負だと、ホイールが斜めになると、それを増やす方向に力が働く、ことがすぐわかると思います。これでは安定して走れません。

(Jones (1970)は他に、位置エネルギーの観点から、ホイールが傾いたときにどこで安定するか、という議論もしているのですが、それは省略します)

この50年前の論文以降、他にもいろいろ研究があるようですが、トレールが正、というのが自転車の安定性に重要(あと、少しのジャイロ効果)というのが、ある種常識だったわけです。

というわけで、次回は、またKooijman (2011)に戻って、この常識が覆された話をします。

(続く)

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