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宮沢賢治と宇宙(75) 銀河鉄道の旅路、再訪―「こと座」ε星説を受け入れて
銀河鉄道の旅路
銀河鉄道はいったいどこを走ったのだろう?
銀河鉄道の旅路をざっと概観すると図1のようになる。
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次に、銀河鉄道で立ち寄った、あるいは車窓からみた景色をまとめたものが図2である。たったひとつの童話なのに、あまりにもたくさんの場所が出てくるのに驚く。星好きの賢治にとって、銀河鉄道の旅はまさに夢のような旅だったはずだ。行きたいところがたくさんあってしょうがない。 そういう気持ちが現れているように感じる。
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銀河鉄道の旅路、改訂版
双子のお星ざまのお宮は、今までは「さそり座」のλ(ラムダ)星とυ(ウプシロン)星としていた(図2)。しかし、「さそり座」にはないとする説の方が有望である。いろいろ調べた結果、お星ざまのお宮のある場所として最も可能性が高いのは、松原尚志の提案した「こと座」のイプシロン星であることがわかった。
そこで、図2に示した銀河鉄道の旅路を改訂し、図3のようにした。
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『銀河鉄道の夜』における「双子の星」の位置付け
『銀河鉄道の夜』に、なぜ双子の星の話が出てくるのか? その唐突感は入沢康夫と天沢退二郎もし適している(『討議 『銀河鉄道の夜』とは何か』(入沢康夫、天沢退二郎、青土社、1976年、46頁)。
ペルセウス座の二重星団、h+χ Per説を提案した竹内薫・原田章夫も次のように述べている(『宮沢賢治・時空の旅人 文学が描いた相対性理論』日経サイエンス社、1996年、86頁)。
「銀河鉄道の夜」のこの部分は(註:双子の星の部分)、原稿を調べてみると賢治が二十二歳のときに書いた「双子の星」がメモのように引用されているだけなのです。それも、まったく関係ない英語の献立メニューや値段表にまぎれて、なぐり書きで挿入されているのです。
実際に、『銀河鉄道の夜』の生原稿のコピーを見てみよう(図4)。これでは、どうしようもない。
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ところで、チュンセとポーセは賢治の小品〔手紙 四〕にも出てくる。明らかにチュンセは賢治、ポーセは妹のトシである(『【新】校本 宮澤賢治全集』第十二巻、筑摩書房、1995年、319-321頁)。賢治は『銀河鉄道の夜』に妹のトシをポーセとして登場させ、挽歌の香りを漂わせたかったのだろう。しかし、賢治には残された時間がなかった。結局、双子の星の話はポッカリと浮いたまま残ってしまったということになる。
『銀河鉄道の夜』を読んでも、双子の星が何か知ることはできない。それには、こういう理由があったのだ。
「こと座」ε星説
竹内薫・原田章夫によるペルセウス座の二重星団、h+χ Per説も魅力的だった(『宮沢賢治・時空の旅人 文学が描いた相対性理論』日経サイエンス社、1996年)。しかし、結局、松原尚志の提案する『「こと座」のε(イプシロン)星説』を採用した。
夏の夜空に見える。
天の川の西の岸にある。
さらに西へ行くと泉がある。
この泉は「かんむり座」である。
これらの条件を満たす星座には「こと座」がある。「こと座」にはダブル・ダブル・スターとして名高い連星のペア、ε1とε2がある(図5)。チュンセとポーセの童子にお似合いである。ということで「こと座」ε説が提案された。
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天の川は連星だらけ
しかし、なぜ「こと座」ε星なのかという疑問は残るだろう。『双子の星』には「こと座」ε星であるという記述はないからだ。
実は、「こと座」には他にも連星がある(図6)。
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前回のnoteでも書いたように、天の川の中にある星の半数は連星なのだ。しかし、この事実が判明したのは観測が進んだ20世紀後半のことである。
賢治の時代に有名だった連星はε星だった(図7)。そのため、「双子の星」に該当する候補としては、「こと座」ε星は最適の候補なのだ。
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ユニーク(一意的)に指定できないのは残念だが、「こと座」ε星説を受け入れてよいだろう。
銀河鉄道の旅は楽しい(図8)。
ジョバンニもこの星が好きだったことを祈る。
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