ゴッホの見た星空(36) 広重ブルーから《星月夜》?
葛飾北斎の《神奈川沖浪裏》からゴッホの《星月夜》へ
以前のnoteで、『印象派と浮世絵』展を観て大発見があったという話をした。
展覧会では《神奈川沖浪裏》と《星月夜》が広い会場の壁に並んで大写しにされた(図1)。《神奈川沖浪裏》に描かれている大波は「逆巻く波」。たしかに、ゴッホの《星月夜》に通じるものがある。
の後、「すみだ北斎美術館」に出かけたとき、一冊の本に出会った。『北斎と数学』(新藤茂、東京美術、2024年という本だ。「浮世絵」と「数学」を融合して研究している新藤茂は《神奈川沖浪裏》の大波を「北斎螺旋」と名付けていることを知った(37頁)。「なるほど!」と膝を打つしかなかった。
こうしてみると、浮世絵がゴッホの絵にさまざまな形で反映されていると思わざるを得ない。芸術は国を選ばないということか。
広重ブルー
先日、友人から一冊の本をもらった。太田記念美術館で開催されている展覧会『広重ブルー』の図録だ(図2)。
北斎も好きだが、広重も好きだ。
「展覧会はどうだった?」
友人に尋ねると、おもむろに図録を開いてこう言った。
「この絵を見てご覧。」
そこには《阿波 鳴門の風波》があった。六十余州名所図会の一枚だ(図3)。
その絵を見て驚いた。なんと、ゴッホの《星月夜》に描かれた謎の渦巻に酷似していたからだ(図4)。
ゴッホは北斎だけでなく、広重の絵にも影響を受けた。広重の《猿若町よるの景》に見られる見事な遠近法はゴッホの絵にも影響を与えた(たとえば、《夜のカフェテラス》)
北斎漫画《阿波の鳴門》
ところで、北斎は鳴門の風波を絵にしなかったのだろうか? 気になって調べてみたら、あった。北斎漫画《阿波の鳴門》だ(図5)。この渦もまた、ゴッホの《星月夜》に描かれた渦巻に似ている。
「ゴッホの《星月夜》の渦巻は浮世絵の鳴門の風波の可能性がある」こういう説も成立しそうだ。
名画は面白い。そこには幾つもの深い世界が潜んでいる。