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大学1年 冬④例え試練があろうとも、我々は食べたいのだ。牛丼を。

2月。

1年で最も寒い時期。

僕のいた地域にはエアコンというものがほぼない。

あるとしたらコンビニくらいだ。

だって真夏でも15℃とかだし。

代わりに冬が厳しすぎるのでガスヒーターは全ての家に必須で付いていた。

これのいいところは一瞬で暖かくなるところ。

これのわるいところは付けっぱなしにするとガス代がエゲツないところ。

夜にもなると外の気温はマイナス15℃にもなる。

ある日、レストランの夜勤バイト帰りの夜道、家までの10分ほどの距離を歩いて帰ると、吐いた息で前髪がシャリッシャリに凍っていた。

さすが北海道。

あんびりーばぼー!

それからは家に帰る度に玄関で前髪のシャリシャリを落としてから部屋に入るようにしていた。


そんな僕らも間も無く2年生になる。

ついに下僕後輩が出来るのか。

とても感慨深い。

僕らはいつも大学の2階にある大型テレビとソファが並んでいるところでだべってたんだけど、

いつものお決まりの場所で僕と、イケメンのっち、生ニラ、山Qで話してる時にふと

「2年生になる前に牛丼食べたくね?」

という声が上がった。

お金のない学生にはとても優しい食べ物。

そして、いつ食べても美味しい食べ物。

米と牛肉と、玉ねぎ。

それだけなのに僕たちの心を離さない食べ物。


そういえば、こっちに来てから一度も食べてない。

なんなら吉野家すら見たことがない。

まぁでも、俺の行動範囲なんて大学から半径2km以内が関の山。

離れた場所にはあるんだろう。

イケメンのっちは地元(とは言え隣の町)の人間な上に車持ちだから、この土地のことはもちろん詳しい。

そんなのっちが微妙に困った顔をした後に

「いや、俺も食いたいから行くか!」

と言い出した。

のっちが車を出してくれる。ありがたい!

みんなでノリノリでいこーぜー!となった。

のっちの車で出発してしばらく。

みんなで何食べるー?やっぱり大盛りかなぁ。紅生姜入れる派?

とか話をしていたが、大学を離れて10分が経ち、20分が経ち、なんなら隣町にあるのっちの地元も通過。

あれ?

遠くね?

少し不安になってのっちに尋ねる。

"ねぇ、牛丼食いに行くんだよね?"

「そだよー!だから帯広に向かってんだべさ」

お、お、お、おびひろ?

おびひろ?

帯広とかいて、おびひろのおびひろ?

え、車で片道2時間はかかるくね!?

吉野家ってそんなに遠いのー!?

ここでようやく、のっちが行くのを躊躇ってた謎の間が頭によぎる。

だから間が空いたのか!

今更ながらことの重大さを理解して、

まぁでも、ここまで来たからには後には引けない。

片道2時間、往復4時間かけて吉野家に行こーじゃないか!

…運転すんのはのっちだけど。

ごめんよ、のっち。

でも、これをわかってて“行こう"と言ってくれたその心意気、俺は大好きだよ。アイシテル。

しかし往復4時間もの距離を運転させるのはさすがに気が引ける。

疲れるし、眠くなるし。

そこでまずはみんなのテンションをあげるべく、謎のカラオケ大会が始まった。

アカペラで。

僕は当時謎にGACKTブームが自分の中だけで大絶好調な時期を迎えており、運転するのっちにむかってひたすら

"あーいしてーもいいかーい?"

と車内でシャウトしていた。

…アカペラで。


それぞれが順番にひたすらアカペラで持ち歌を熱唱するという地獄の時間を1時間以上続け、僕らはついに約束の地エデン(吉野家)へ到着。

帯広市の中でも外れの方にあってよかった。

さらにここから距離があったら、喉もお腹の減り具合もメンタルもすべてが限界に行き着くところだった。

店内に入る。

オーダーするものは車内で散々シミュレーションを行ってきた。

迷うはずがない。

なのに

お店に入って、その空気を直に味わうと惑う。

魔性の迷路のようだ。

メニューを改めて見る。決めているのにだ。

横の生ニラも悩んでいる。

そんな迷宮に陥ったビギナーな僕らのことなど梅雨知らず、スタッフが僕らに水を差し出して魔の一言を放った。

「ご注文は、お決まりですか?」

まだ決まってないのに!

いや、決めてきたのだ。4人で散々語り尽くして決めてきたのだ。悩むわけがないのだ。

なのに悩ませてくるこの環境。

まさにラビリンス。

「俺は牛丼大盛りで!あとおしんこも」

のっちが早速斬り込んだ。

まるで呪文のように、車の中で何度も練習した通りに言い放つ。

さすがイケメン。流れが実にスムーズだ。

それで正気を取り戻したかのように、みんなそれぞれに注文をしていく。

最後は僕。

"ギュウドンオオモリトタマゴ"

極度の緊張の中での出番のせいで、僕はまるで日本に来たばかりの外国人ばりに辿々しいニホンゴで注文をしてしまった。

周りの3人が水を吹き出す。

「かしこまりました!牛丼大盛りにたまごですね!」

よかった。通じた。

久しぶりに食べた吉野家の牛丼は、とてつもなく美味しかった。

まさかこの後、BSE問題でしばらく牛丼が食べられなくなるとは、、、


ちなみに帰りはみんな疲れて、ほぼ静かな会話のみで2時間を過ごしました。

お疲れ様でした。



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