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高校3年 受験後①くしろよろしく

たしか三月の半ばだったと思う。

入学の前に大学生活のアパートを探しに父と北海道に行くことになった。

北海道は人生2度目。

1度目は家族旅行。

その時は道央エリアがメインだったから、道東エリアは初めてだ。

地元から直接飛行機は出ていなかったので、仙台から新千歳空港まで飛行機で行って、その後新千歳から道東へ飛行機を乗り継いだ。

道東へ向かう飛行機がものすごく小さくてビックリしたのをやけに覚えてる。

場末のスナックのママみたいなスチュワーデスさんと、僕らを含めた数名しか乗っていなかった。

飛行機に乗った直後に父が突然

「こんな誰の乗らない路線を担当してるってことは、あのスチュワーデス、不倫とかして左遷されてる気がする」

と、これまで父と子としては話したこともないような下世話な会話をしてきたのが脳にこびりついている。

ちなみに座席は右翼の近く。

生まれて初めてのプロペラ機は、とにかくプロペラがうるさくてひたすら揺れていた。

下世話な会話をしはじめた父は、、、

普段ならありえないほどめちゃくちゃな乗り物酔いしていた。

不倫だの左遷だの言ったからバチが当たったんだよ。


しばしのフライトを経て到着。

まだ身体が揺れてる気がする。

父はプロペラ機は2度と乗らないと何度も言っていた。

外に出たら突き刺さるくらいにめちゃくちゃ寒かった。

雪もがっつり残っていた。

さすが北海道。

パンフレットに載ってた人は半袖でも、三月の北海道はまだ寒い。

冷たい青。という言葉がぴったりな、晴々としない、どこか薄暗い青空。

とりあえず中心地へ向かう直通バスに乗る。

出発から2〜3分後、バスが停まる。

「ただ今、鹿の群れが横断中です。しばらくお待ちください」

アナウンスが流れた。

驚きながら前を向くと、数十頭のエゾシカが一列でビックリするくらいゆっくり道路を渡っていた。

多分、5分は待ったと思う。

ようやく、バスはだだっ広い湿原の中を進み始めた。

そこでようやく気付いた。

俺、ものすごい場所を選択してしまったのかもしれない、と。


中心地に着いた。

駅を見た感想は「おもひでぽろぽろに出てくる駅みたい」だった。

なんともいえない昭和感。

どでかい建物のてっぺんから長い垂幕が下がっていて

「9464649」

と書いてあるのが見えた。

父と謎解き合戦をした結果

「くしろよろしく」

にたどり着いた。

そこで改めて気付いた。

俺、ものすごい場所を選択してしまったのかもしれない、と。

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