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高校2年 秋②日本海の岬でバカヤロウと叫んだ馬鹿者

県大会への切符を手にした僕ら。

意気揚々とテンションはアゲアゲうっひょーみたいな感じだが、冷静になった時いくつか問題が発生したことに気付いた。

まず会場への距離。

今回は海沿いの街での開催とのこと。

我らの地域から会場までは電車でも3時間ほどかかる。

移動時間がキツすぎる。

それと、大道具(主にススキの山と、武将のベンチ)とか鎧とか刀とか、衣装とか小道具の運搬どうしようという問題。

20年以上地区大会も突破できてない我が部にはバスとか文明の利器は存在しない。

困った。

地区大会は近かったから、うちの部が代々愛用しているオンボロの荷車で一気に運べた。

しかしススキの山とかベンチとかは電車乗れないだろうよ。

とりあえず今回大道具をやってくれていた高木ブーa.k.aながぶーと、舞台監督のおやびんに相談。

大道具は分解して持ち運べるようにしてもらうことになった。

衣装、小道具は使う人がそれぞれで管理。

まとめては無理でも小分けならギリいけるだろう、と。


諸々話し合ったが交通手段は最安で行くため、鈍行列車を利用。

ガラガラの時間を見計らって、乗っていけば多少荷物でかくてもいけるべ、と。

都会の人間にはわかるまい。田舎には急行なんてものはないのだ。

そして出発当日。

ながぶーがベンチを担いで現れた。

分解できなかったらしい。

なんでだずー!

仕方ないから駅員に見られないようにコソコソと、ベンチを担いで電車に乗った。

その姿を横目で見ていた顧問のマイルドメガネが、めちゃくちゃちっちゃい鞄ひとつを手に持ちながら劇中の台詞「光明じゃ」と呟いた。

このタイミングで「光明じゃ」の意味もわからんし、2泊3日のスケジュールなのにめちゃくちゃちっちゃい鞄しか持ってないことも意味わからん、

マイルドメガネのセンス、ただものじゃねぇな。と思った。


三本の電車をそれぞれ終着駅まで乗り継いで、途中だべったり寝たりしながら会場のある海沿いの街へたどり着いた。

とりあえず荷物をホテルに置いて、劇場の下見。でかい。

二階席まであるじゃないか!

僕らのホーム劇場とはえらい違いだ。1.5倍くらい入るんでないか、、、

そして商店街を見て回る。

ゆずの歌が流れていて、ゆずファンの後輩たちがテンション上がっていた。

さらに進んでいくと、小さなステージがある公園を見つけた。

"本番前はここで練習できるねー。"

"光明じゃ"

そんなことを言いながら通り過ぎる。

マイルドメガネは何度言うんだってくらい"光明じゃ"を気に入って繰り返してた。

そして海の見える岬へ着いた。

僕ら内陸の人間は、海に行くことがほとんどない。

でっかいなー!

とにかくテンションが上がった。

海はめちゃくちゃ荒れていたが、誰ともなく海に向かって"バカヤロー!"と叫んだ。

なぜかみんなその後に続いた。

なにがバカなのか、誰がバカなのかもよくわからないけど青春してる感じがした。

顧問の角刈りメガネがニヤニヤしながらその姿を見ていた。

荒れた海に僕らの叫びはほぼかき消された。

海はこんなにも広いんだなぁと改めて思った。

ホテルに戻る。

光明マイルドメガネを見つけた。

そういえば、とふと疑問に思ったことを彼にぶつけてみた。

"3日もいるのになんでそんなに荷物少ないんですか?"

もはやこの小さなカバンの中に何が入ってるのか謎で仕方なくなっていた。

彼はまんざらでもなさそうに小さな鞄を開ける。

中には、新聞と小説、そしてヨレヨレの肌着にパンツと靴下しかなかった。

すくなっ!

思わずツッこんでしまった。

すると彼は

「僕は合理主義やから、旅の時には使い古した下着しか持ってこない。これならそのまま捨てていけるから帰りはさらに荷物が少なくなるやろ?」

と、満面のドヤ顔で答えた。

その日の夜、突如降った雨でずぶ濡れになった彼は、ドライヤーでひたすら服を乾かしていた。

全然光明じゃなかった。

着替えがないってこわい。

僕は改めて着替えがあってよかったなと思った。


いよいよ明日から大会が始まる。

僕らの出番は、大会2日目。



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