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アスタミューゼ株式会社/川口伸明『2080年への未来地図』(技術評論社)

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このページでは『2080年への未来地図』(以下、『2080』)のご紹介、および本文から一部抜粋した内容を掲載します。購入者専用サポートページには、書籍に掲載しきれなかった参考情報やアップデート情報、特典動画等を掲載しています。『2080』については、弊社コーポレートサイトもあわせて御覧ください。


『2080』に関するFAQ

Q1.『2080』とは何?

A1. 川口伸明の著書『2080年への未来地図』(技術評論社、2024年4月13日発売)で、前作『2060未来創造の白地図』(以下、『2060』)のバージョンアップになります。川口はアスタミューゼ株式会社エグゼクティブ・チーフ・サイエンティストであり、アスタミューゼのコンサルティング事業やデータアルゴリズム事業に取り組んでいます。

Q2. 前作『2060』との違いは?

A2. 前作『2060』は弊社「未来を創る有望成長領域136」で取り上げている、バイオ・ヘルスケア、知覚と身体性拡張や都市・交通、資源・環境・エネルギー、宇宙など、先端技術やハイテクを中心とした科学技術視点での未来予測や新しいビジネスの可能性について紹介しています。

新作『2080』は、アスタミューゼの「人類が解決するべき社会課題105」をベースに、「SDGsの先にある未来」への課題解決のテーマについてより広い視点から考察します。科学技術だけでなく、人文・社会全体について俯瞰的に掘り下げた内容になっています。

Q3. この本でどんなことが分かるの?

A3. 具体的には、AIと超知能が社会をどう変えていくか・心や文化芸術にどう影響するのか(1・2章)、世の中で言われているのとは全く違うメタバースの本質(デジタルサプライチェーンやバリューチェーンなど)がモノづくりやビジネスをどう変えていくか(3章)、医・食・農といった私たちの生活に大きく関わる価値がどう変わるか(4章)、環境や生態系に関わる社会の価値の変化(5章)、政治・経済を含む社会システムの変容(6章)、経済安全保障と地政学リスク(7章)、戦争と平和・新世界秩序(8章)、脳が変えていく未来(9章)といった、幅広い話題について、データ・ドリブンに(特許・論文・基礎研究などの文献に基づき)最新事例を紹介し、その先に起こる生活・社会・ビジネスの変化について考察し、新たな視点や施策を提案しています。また、各章にはより深い考察やワークショップなどに使える「演習問題」をつけています。

Q4. なぜタイトルを「2060年」と「2080年」にしたの?

A4. 2030年代後半に始まるシンギュラリティ(人間がAIや生命科学など先端技術を用いて生物学的制約を超えた存在となる特異点)がテクノロジーとしての社会実装を完成するのが2060年ごろ、また2080年代は地球人口全体が減少に転じていく地球人口オーナス期が始まるころ(2086年前後)で、人口の半数が60歳以上かつデジタルネイティブ、残り半分がAIネイティブ、人間の価値観も今よりずっと自由になり、政治経済も生活文化も社会全体が本質的に変容し始めると考えられるため、象徴的にタイトルに用いています。詳細な説明は技術評論社のサイトに掲載されている『2080』の「はじめに」の中盤に書かれています。

Q5. 目次や内容の見本は?

A5. 主要目次は本noteの後半に記載しています。
また、技術評論社のサイトにはより詳しい目次「はじめに」の全文も掲載しています。

本の冒頭部分(1章1節・2節まで約18ページ分)は弊社コーポレートサイトから無料ダウンロード可能です(2024年4月13日以降)。

そのほか本文から一部抜粋した読みどころは本note後半でご紹介しています。

Q6. 本の内容を理解できる無料のセミナーはある?

A6. 弊社主催・共催の無料ウェビナー等で、著者による講演も実施予定です。アスタミューゼのコーポレートサイト公式facebookページ等でご案内いたします。

Q7. その他質問やサービスを依頼するには?

A7. 著者への取材や講演依頼、アスタミューゼのデータやコンサル業務に関するお問い合わせにつきましては、「アスタミューゼお問い合わせ窓口」からご連絡ください。

書籍コンテンツへの個別のご質問やご要望については、お応えしかねる場合もございますので、あらかじめご了承ください。

『2080』主要目次

  • はじめに 明るい未来が設計可能になってきた

  • 第1章 新たな知性が誕生するXデイ ~異次元で進むAI主導サイエンスとシンギュラリティ

    • 1-1 驚異的な発展を遂げるAI

    • 1-2 21世紀中にAIのミッションはどこまで広がるか?

    • 1-3 AIによる課題解決とその未来 ~世界のセンサー・人間拡張・新しい知性の誕生へ

    • 1-4 ヒトを凌駕しつつあるAIのリスクとチャレンジ

  • 第2章 もしも紫式部がChatGPTを使ったら? ~数学と脳科学が解き明かす言葉のメタバース

    • 2-1 AIはどのように創発するのか

    • 2-2 生成AIと生成NI:記号や意味を紡いでいく文法と法則

    • 2-3 言葉が織りなす意味空間:古人たちの生成NIと脳内メタバース

  • 第3章 勝負はリアルワールドで決まる ~言葉で表現できるものは形になる未来、生き方も多重化する

    • 3-1 メタバースはリアルの鋳型を必要としない

    • 3-2 メタバースの本質は「体験価値の合成」

    • 3-3 バーチャルからリアルが生まれる未来へ

    • 3-4 メタバースのモノづくりへの応用

    • 3-5 感覚の共有と憑依

    • 3-6 メタバースの課題と未来

  • 第4章 未来に蘇るアスクレピオン ~医・食・農のウェルビーイング

    • 4-1 デジタルで変化し始めたヘルスケア

    • 4-2 メタバース医療の可能性

    • 4-3 デジタルヘルスとプレシジョンメディスン

    • 4-4 AIがサポートするヘルスケア

    • 4-5 ヘルスケアに革命をもたらす量子コンピューティング

    • 4-6 マイクロバイオーム(腸内細菌叢)と疾病リスク

    • 4-7 食と健康のウェルビーイング

    • 4-8 農・水・畜産のウェルビーイング

  • 第5章 未来の都市は、モルフォ蝶の夢を見るか? ~アーキテクチャのレジリエンスとサステナビリティ

    • 5-1 SXとサーキュラーエコノミー

    • 5-2 カーボンクレジットの価値を高めるトークン市場、貧困解決への挑戦も

    • 5-3 生物模倣がサステナブルな未来の決め手に

    • 5-4 都市と建築のサステナビリティとストーリーテリング

    • 5-5 災害低減化に向けた環境改変

  • 第6章 新しい政治・経済・社会のモデル ~ステークホルダー・ファーストな未来社会

    • 6-1 人口動態から見た新しい経済・社会システムへの転換

    • 6-2 新しい政治・経済システムに向けての世界の動き

    • 6-3 ステークホルダー資本主義とマテリアリティファースト社会

    • 6-4 グローバルサウスの都市政策の新たな動き

    • 6-5 日本から新しい社会モデルを生み出すために

  • 第7章 経済安全保障と地政学的リスク ~エマテクとデュアルユース、宇宙からの脅威も視野に

    • 7-1 世界で顕在化する変化と軋み

    • 7-2 サイバー・フィジカルで展開する新しい戦争の形

    • 7-3 宇宙からの脅威にどう立ち向かうか

    • 7-4 技術の軍事転用:エマテク、機微技術、デュアルユース技術

    • 7-5 経済安全保障の未来

  • 第8章 人類は戦争を超えられるか? ~文化的誤解や障壁を克服し、より調和のとれた平和な社会を創るには

    • 8-1 平和を望むも、戦争をやめられない?人類

    • 8-2 「自己家畜化」の光と影 ~包摂は、内なる敵対を生む

    • 8-3 戦争を超えられる世界とは

    • 8-4 新しい世界秩序の可能性を探る

  • 第9章 未来をどう生きるか ~心・脳・時間:生命への回帰

    • 9-1 脳のエンコードとデコード

    • 9-2 「命の移住」は人類に何をもたらすか? ~生と死の二分論を超えて

    • 9-3 時間が生命を駆動する

  • 巻末付録 未来の読み解き方と事業創出・経済活動への応用

  • おわりに ラグナロクの黄昏に寄せて

『2080』本文より一部ご紹介

1-4「シンギュラリティの主語はAIではなく人間」より抜粋

前作『2060 未来創造の白地図』にも書いたように、レイ・カーツワイル(Ray Kurzweil) 博士が著書『The Singularity Is Near:When Humans Transcend Biology』の中で2045年に到来するとしたシンギュラリティ(技術的特異点)とは、日本で誤解して流布されているよ うな「コンピュータ(AIを含む)が人間の知能を超える日」ではありません。正しくは、「人間が生物学を超越する(生物学的制約から解放される)日」を意味します。具体的には、身体性や遺伝子、脳によって規定された能力的限界を、コンピュータやナノテクなど先端技術を使うことで乗り越えていくということです。また、「特異点」「解放される日」というのも、たった1つの年次ではなく、できることの難易度や浸透度に応じて、ある程度のスパンとグラデーションがあると思います。私の予想では、ChatGPTに始まる今は予兆段階で、2020年代後半から序章(プレ・シンギュラリティ)が始まり、AGI(汎用人工知能・超知能)と連携したメタバースが実装される2060年代まで続くイメージ(だから前作は2060でした)です。本格的な実装にはさらに時間を要し、本作のモティーフである超人類誕生や深宇宙への旅立ちなどは、2080年から2100年ごろにようやく実現に漕ぎ着けるものもあるでしょう

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現実味の高い自律型AIは、人間の脳神経系に内在して、人間の意思決定を代替するインプラント(体内埋め込み)型あるいはナノロボット型AIです。これについては、第4章に登場するBSI(脳脊髄インターフェース)のように、現状は人間の意思を汲み取って作動する非自律的・補助的な機能ですが、すでに医療機器や医薬として実証段階にあるので、これらが進化して自律的に人間の思考や言動を制御していくという経路は十分にありえます。さらに、脳神経系でなく、生殖系列の細胞(卵母細胞など)にナノAIが入っていけば、ミトコンドリア・イブならぬ“AIイブ”として、生まれながらにAIと体内共生したニュータイプの人類の誕生につながる可能性すら完全に否定することはできません。医療は、遺伝的疾患や神経変性疾患(アルツハイマー病や脊髄損傷など)の治療のように、その人一代限りの影響で終わる内在性AIを目指すでしょうけれど、軍事として研究されれば、プログラム可能な高スペックの戦闘士脳を遺伝的に生み出せるほうが圧倒的に有利だからです。

3-4「メタバースのモノづくりへの応用」より抜粋

メタバースをサービスとして提供する、MaaS(Metaverse as a Service)というビジネスモデルが注目されています。具体的には、メタバースを構築・運用するために必要な技術やインフラをクラウド上で提供するサービスです。MaaSは、インダストリ5.0に向けて重要な役割を果たすと期待されています。

インダストリ5.0とは、人間とロボットが協働することで、高度なカスタマイゼーションや持続可能性を実現する製造業の未来像です。インダストリ5.0では、デジタルツインやデジタルクローンなどの技術が重要な役割を果たします。MaaSは、デジタルクローン(バーチャルヒューマン)による研究開発を加速し、生産性向上を可能にします。デジタルクローンとは、人間の外見や動作、感情などを高精度に再現した仮想の人間です。デジタルクローンは、実験やシミュレーションなどの研究開発に活用できるだけでなく、製品やサービスの紹介や販売などの生産活動にも活用できます。

メタバースのモノづくりへの応用 では、デジタルツインやデジタルクローンを用いることによって、メタバースの中で次のようなことが可能になります。

  • 研究開発や生産性の加速:製品の設計や試作やテストをおこなうことで、コストや時間を削減し、品質や性能を向上させることができます。

  • 没入型体験の提供:顧客に製品やサービスの体験やフィードバックを提供することで、顧客のエンゲージメントを高めることができます。

  • 出力品質の監視:生産ラインからの出力品質をリアルタイムに監視することができます。

  • データの分析・予測:IoTデバイスやセンサーからのリアルタイムデータを分析・予測することができます。

さらに、2030年までには、ブレイン・コンピュータ・インターフェース(BCI)が普及し、BCIとXR技術の組み合わせにより、他人の記憶や瞬間を体験できるようになる可能性があります。これにより、製品やサービスの価値や感情的なつながりを高めることができます。また、シミュレートされた環境から得られる人工的なデータが、ロボットが問題解決したり危険な仕事で人間に代わったりすることを指示する可能性もあります。リアル空間でのQoS(Quality of Service)、Quality of Experience(QoE)が問われます。

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積層造形技術を用いたデジタルサプライチェーン(DSC)は、物流や在庫の管理に大きな変革をもたらします。従来のサプライチェーンでは、製品や原材料は、中央集権的な工場で製造され、長い物流ルートを経て、最終消費者に届けられます。この場合、製品や原材料の在庫を保持する必要があり、物流や在庫のコストや時間がかかります。また、製品や原材料の品質や安全性を確保することも課題です。積層造形技術を用いたデジタルサプライチェーンでは、製品や原材料は物理的なオブジェクトではなく3Dデジタルファイルとして保存され、転送されます。製品や原材料は、需要のある場所で、必要なときに、3Dプリンターで製造されます。これにより、物流や在庫のコストや時間を削減することができ、製品や原材料の品質や安全性を高めることができます。デジタルバリューチェーン(DVC)、物流、在庫管理には、特に次のような効果が期待されます。

6-1「人口動態から見た新しい経済・社会システムへの転換」より抜粋

人口動態は、単に人口の増減ではなく、経済活動や生産性に直結した15〜64歳の生産年齢人口割合に着目する必要があります。その推移から、経済規模について、ほぼ確定した未来を読み取ることができます。BRICSとは、ブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国の略称であり、新興経済国の代表格として国際社会に影響力を持つ国々です。2023年には6カ国の加盟を決定しました。アルゼンチンは辞退したため、2024年1月から、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)、イラン、エジプト、エチオピアの5カ国が新たに加わり、10カ国からなる拡大版BRICSへと移行しました。一方、グローバルサウス(Global South)とは、北半球の先進国に対しての南半球を中心とする新興国や途上国の総称です。

2023年のG20(金融・世界経済に関する首脳会合)議長国を務めたインドが主導して「グローバルサウスの声サミット」を開催したことで注目される ようになりました。インドやブラジルをはじめ、アジア、太平洋、中南米、中東、アフリカなどの諸国が該当しますが、タイやフィリピン、マレーシアなど、地理的には北半球にあっても、経済的・社会的・政治的に発展途上の場合は、グローバルサウスに含まれる国もあります。また、中国やインドのように、経済発展がめざましく、G20に入っている国でも、一部の地域や人々は依然として貧困に苦しんでいるという側面から、グローバルサウスに数えられる場合があります。グローバルサウスの多くの国々は、米欧と中露のどちらにも与しない中間派の立場を採っており、分断や対立を避ける姿勢を示しています。

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BRICSとグローバルサウスを構成する国々の経済成長には大きな期待があります。中でも、中国のGDPは2035年頃に米国を追い越し、インドは2075年までに米国を抜き、中国に次ぐ世界第2位の経済大国になるという予測(2023年)があります。

2050年以降の世界の経済大国には、中国やインドをはじめとするBRICSとグローバルサウスの国々が存在感を強めます。

しかしながら、重要なことは、世界的な人口増加の鈍化と、グローバリゼーションの減速に伴い、生産性の伸びが鈍化することで、世界経済は低迷していることです。さらに、成長予測は2024年から2029年まで平均2.8%ですが、それ以降は人口動態に伴い低下することを予想しています。

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●人口増加の鈍化による世界的な潜在成長の遅さ

世界経済の成長は、過去10年間で年平均3.6%から3.2%に減少しました。これは、おもに労働力成長の鈍化を反映しています。世界人口の増加率は、過去50年間で2%から1%未満に半減し、2075年までにほぼゼロになると予想されています。世界人口のピークは100億人程度です。

●アジアの大国を中心とした新興市場(EM:Emerging Markets)の収束が続く

開発途上国と先進国の実質GDP成長はともに減速していますが、相対的に見ればEMの成長は先進国市場(DM:developed market)の成長を引き続き上回っています。結果として、両者の経済規模は差を縮め、経済格差は収束(convergence)を続けています。

●グローバルな不平等が減少し、地域内不平などが増加

EMの収束が進んだ20年間で、グローバルな所得分布がより均等になりました。しかし、国間の所得格差は減少している一方で、国内の所得格差は増加しています。これがグローバリゼーションの未来に大きな課題を突きつけています。

9-3「時間が生命を駆動する」より抜粋

人間にとって、時間とは、過去から未来に向かって一過性に流れていく「時間の矢」と捉えられています。しかし、実際に時間に方向性があるわけではありません。私たちが感じる時間は、実際には「永遠の今」であり、過去や未来は記憶や想像の中にしか存在しないのです。意識は、エピソード記憶を成立させるために、脳と身体と環境の相互作用で生成されたものと考えられています。その意識や記憶がストーリー・ムービーとして成立するために付けられたラベルのようなものが時間なのかもしれません。そして、ムービーの引き金となっているのが、プロンプトとしての言葉。言葉のつながりによって、意識は生まれ、感覚としての時間が認識されるのかもしれません。図らずも、大規模言語モデルベースの生成AIは、私たちの脳と心のメカニズムの一部とよく似ているのでしょうか。2-2節のウルフラム(Wolfram)氏の意味空間の紹介で触れた映画『メッセージ』の異星人「ヘプタポッド」たちは、時間を「コマ送り」で流れていくものでなく、過去も現在も未来もすべて1枚の絵の中に同時に描かれるような連続した「絵巻物」として捉えています。後期印象派の巨匠ゴーガンは、まさに人間の一生を1つの画面に描いているのですが、それは輪廻転生のように半永続的な生と死の相転移の繰り返しを象徴しているようにも思えます。

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多くの人は、心理的な時間は物理的な時間と異なる速度で進むことを体験しています。フェスのライブなどでワクワク興奮している時と、難しい試験やツッコミ好きな手強いクライアントとのミーティングなどでは、同じ1時間でも新幹線と馬車くらいの違いを感じたりします。2023年8月、この心理的時間についての興味深い論文が発表されました。

米国・コーネル大学のサエデ・サデギ(Saeedeh Sadeghi)氏らは、人間の時間知覚(time perception)は心拍数や心拍間隔などの身体的な要因によって変化することを、回帰分析と心臓ドリフト拡散モデリング(cDDM)によって示しました。心臓病の既往がない18歳から21歳の45人の被験者の心電図(ECG)をモニタリングし、ミリ秒単位の分解能で心臓の電気活動を測定しました。80ミリ秒から180ミリ秒の音を被験者の心拍に合わせて鳴らし、ある音がほかの音に比べて長いか短いかを被験者に報告してもらったところ、音に先行する心拍が短いとその音は長く感じられ、心拍が長いとその音は短く感じられることがわかりました。

ニューヨークタイムズ紙の取材に対し、サデギ氏は次のように話しています。「外界の物事を知覚する必要があるとき、心臓の鼓動は大脳皮質へのノイズとなる。心臓が静かであれば、より多くの世界をサンプリングすることができる」

ニューヨークタイムズ紙は、COVID-19パンデミックの時に、時間知覚に注目が集まったことを伝えています。英国でロックダウンされた2020年に実施された時間知覚の研究では、「被験者の80%が時間の歪みを訴え、高齢で社会的に孤立している人ほど時間が遅くなり、若く活動的な人ほど早くなった」と報告されています。同紙には、リバプール・ジョン・ムーア大学の心理学教授ルース・S・オグデン氏の次のコメントが紹介されています。

「時間体験は、概して、その人の幸福感(well-being)を反映するような影響を受ける。うつ病患者は時間の遅れを経験し、その時間の遅れは、うつ病の悪化因子として経験される」

コーネル大学の研究から、心拍フィードバック機構により、時間の心理的歪み(time-warp)が生じることがわかりました。これは、腸内細菌による脳-腸軸(脳腸相関)に似た、脳-心臓軸のようなシステムの存在を彷彿とさせます。さらに、年齢、病気や幸福感(well-being)によっても時間の歪みが確認できることから、腸内細菌叢の関与の可能性をますます感じます。その意味では、脳-腸-心臓軸のような時間知覚のシステムがあるのかもしれません。論文中には海馬や時間細胞についての記述はありませんが、これらが関わっているとすれば非常に面白いと思います。人間が夢中になれることに巡り会えれば、心拍が上がり、心理的時間が進み、結果的にウェルビーイングにつながる可能性があるのだとしたら、ワクワク、ドキドキできるものを探すことは、個人だけでなく、組織の生産性や社会のサステナビリティ上も意味があることです。

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※要パスワード(『2080』p.7に記載)