スポーツと気晴らし サティとマルタン~時代を超えた感性の交錯~
『スポーツと気晴らし』は、パリの高級ファッション雑誌 La Gazette du Bon Tonが、1914年に企画し、エリック・サティ(1866-1925)とシャルル・マルタン(1884-1934)によるコラボレーションで1923年に出版。サティの言葉も伴った自筆譜は、1914年3月14日から5月20日の間に完成した。しかし、1914年6月に勃発した第1次世界大戦(1914-1918)の為、マルタンは出兵し、絵画制作は途中で中断されてしまった。終戦後、1922年に出版の企画が再浮上した折、戦前戦後の約8年間で流行や価値観が大きく変化したため、マルタンは新たに絵を描き直した。『スポーツと気晴らし』は、マルタンの描き直した絵とサティの自筆譜(1914年制作のまま)とのセットで1923年に出版の運びとなった。サティは出版に当たって、マルタンが新たに絵を描き直したことを知らなかったそうだ。
1914年にマルタンが描きかけた絵を見ながら、サティは、音楽と言葉を作ったかもしれない。その後、マルタンは、1914年のサティの自筆譜や言葉を見ながら、1923年に新たに絵を描き直したかもしれない。音楽家と画家の2人の感性が時代を越えて交錯する。1914年と1923年の絵を見比べてみると、1923年版は、女性達が自らスポーツを楽しみ、より生き生きとした姿で描かれている。サティの「描写的な音楽」と「謎めいた言葉」は、1914年版の絵にも、1923年版の絵にも、呼応しながらそれぞれに面白い効果を醸し出している。サティの音楽が時代を越えて今でも愛されているのは、サティが「時代を超える」普遍的なセンスを持っていたからかもしれない。
フランス音楽研究会
文責:阿部理香
参考文献:A Mammal's Notebook : The Writing of Erik Satie edited by Ornella Volta (Atras Press 2014)