さよならのラブソング

さよならのラブソング - episode 9

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>> episode 8

サラが少し集中すると、テーブルの上に赤いハートの形をした風船が現れた。
「今まではこうだったの。」
彼女がそう言った側から、ハートの風船はモザイクのようになり、やがてピンク色の粒々の集まりのハートになった。
「でね、ここから、こうなる。」
少し震えた声で言い始めると、ハートは真ん中から裂けて逆さになり、2つの青い雫の形の風船になった。2つの風船はポトポトリとテーブルの上に落ちた。

「バラバラになってくの、みんな。もっと豊かになるためには、まだ子どものようなものだから成長が必要になるんだ。」
彼女は1つを手に取り、うつむきながら手渡してきた。僕はそれを受け取った。
「成長…。でも、サラ。君は悲しそうだよ?」
サラは曇った声で答えた。
「そう?素敵なことじゃない?この星、もっと美しくなるのよ。もっともっと幸せになるんだもの!それに、もう決まったんだよ。」
「それって、誰が決めたんだ?」
「みんなで。」

「みんな」とは一体誰なんだろう。おそらく政治で決まったことなのだろうけど。

ダリアンが説明を加えた。
「遥か昔、この星にきた人たちが、今のこの人間社会を作った。今まで何万年もの間、人々はみんな分かり合えていたし、幸せだった。でも、これだけじゃ小さなグループがバラバラとあるだけで、もっと豊かにしようと思ったらそこには限界がある。それに、ここ数千年の間に「アトランティス」という文化圏が生まれた。彼らは仲良く暮らすことよりも、富を多く保有することに興味を持っている。しかも、一部の人々にだけさ。今までの常識だけじゃ生きていけなくなっている。」
「ダリアンさん、ちょっと待ってください。その前に、ここはどこなんですか?アトランティスって言いましたよね?それって伝説の古代都市であって、実在したかどうかも分からないのに、どういうことなんですか?」
僕は混乱しつつも、趣味領域である都市伝説用語が出てきたことに少しだけワクワクしていた。

サラは続けた。
「たいちゃん、ここはジーランディアっていうの。たいちゃんのとこではもうないの、知ってるよ。オーストラリアのあたりって言ったらわかる?」
ジーランディア。前に少しだけ耳にしたことのある単語だった。地球上にあったはずのもう1つの大陸。オーストラリアの東側に存在していた大陸で、今はニュージーランドが少し顔を出しているだけになっている。ということは、もしかして、僕は時間まで移動していたということ?
「そうよ、たいちゃんのとこの時代ではないわ。同じ地球だけど。」
まるで心の中を見透かしたように、サラが答えた。

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