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さよならのラブソング - episode 1

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はじめに

この物語を愛すべき人々に贈ります。
幸せな心をその胸に思い出して、次の一歩が誇りに満ちたものでありますように。

序章

…忘れないで。
…誇り高き時代があったことを。
…温かく優しい世界を。

蛍の光のようなメロディ。なんだか懐かしい響きの知らない言語。だけど、そんな意味を感じる。水の中に沈んでいく感覚とともに、全身を覆う鉛のようなものが剥がれて落ちていく。赤ちゃんよりも無防備になる。今攻撃を受ければひとたまりもない。なのに、どうしてだろう?何一つ怖くない。そこに希望すら感じる。

* * *

ハッと気がついて目を開けると午前6:00。休みなのか仕事なのか、なぜか混乱していた。曜日の感覚がなかった。しばらくまどろみ、無理矢理に身体を起こした。トイレに行く足元には昨夜飲んだであろうビールの空き缶が転がっている。それを無意識に蹴飛ばしてしまった感覚に少し苛立った。シャワーを浴びて、スーツの袖に腕を通し、身支度を済ませて、家を後にする。

1時間ほどかけて仕事に行く。すし詰め電車とはよく言ったものだ。僕ら一人一人がまるでシャリのそれと同じ。女性と隣り合った日には、いかにして疑われないようにするか、大変気を使う。とはいえ、好きなタイプの顔が近くにあると、正直なところ「ラッキー」と思っていたりする。

会社に着くと、同僚たちがすでにパソコンを開いている。誰に目を合わせるでもなく小声で「おはようございます」と言い、席に着く。小声で挨拶が返ってくる。コーヒーの缶をプシュッと開けて、メールを確認する。

「おい、岡原。」
名前を呼ばれて振り返ると、同期の根本が手に一冊の本を持っていた。
「忘れてたろ。ごめんごめん、最近掃除してたら出てきた。」
半年ほど前だっただろうか。彼に貸した本だった。超古代文明のことを特集した雑誌だ。それにしても、掃除をしなければ出てこないところに置いていたとは、人のものをどう扱っているのか。少しピリッとした気持ちになりながら本を受け取った。
「ああ、ありがとう。ちょうどまた読みたいと思っていたよ。」
その雑誌を受け取ると鞄にしまい、読みかけたメールに再度目をやった。

「何それ?いかがわしい本?」
女性の声に振り向くと、先輩の麻木が僕をおちょくる。
「いや違いますよ、中の情報はいかがわしいかもしれないですけど!」
と愛想笑いでかわそうとした。彼女は結構厄介な性格なので、できるだけ深入りしたくない。
「ふうん。じゃあいかがわしい本ね!」
「まあ、なんでもいいっす!」
とコーヒーを口に含んでパソコンに向かった。

何一つ取り柄もなく、ただただ週5日働き週末に休む、ごくごく普通の毎日。こんな日々がこのまま続いて、歳を追うごとにそれなりの立場になっていくんだろうと漠然と思っている。

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