さよならのラブソング

さよならのラブソング - episode 4

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>> episode 3

家と家の間はわりとまばら。隣の家は50mくらい離れている、といったところか。僕はサラに連れられて町の中を歩いていた。好きなところに好きな形の家を建てて、家の周りの路も好きなように造っているようだ。碁盤の目にしたい者、クネクネ路にしたい者、それぞれのセンスで造っている。ただ、ご近所同士では似たような形や色合いの家が建っている。おそらく、この島の地図を作るのはとても大変だと思う。

「あら、サラ、お散歩?その子見ない顔ね!いい人見つけたの?」
奥様方が窓の内側から声をかける。
「ちがーうの!エリさん!おシゴト!」
彼女は若干感じが悪いほどにストレートな返答をして、窓の方に駆け寄った。
「エリさん、この人はね、たいちゃん。連れてきたの。」
「じゃあ、ダリアンさんとこのニンムなのね?」
「うん、ニンムだよ。」

ダリアン?ニンム?よくわからないが、女性はとにかく話が長い。どこのお花が咲き始めただの、そろそろどこで木の実がなるだの、話していたと思うけど、僕は待たされていた。いや、興味のない話でついていけず、かといって見知らぬ土地でどこに行くこともできず、待っているしかできなかった。

「じゃあまたね、エリさーん!」
「はーい、くれぐれも仲良くするのよー!」
エリさんはニヤリとした表情で僕たちを送り出した。
「じゃあ行こう!続き続き!」
サラは行き先を指差した。
「次のとこは、どこ?」
「実は決めてなかったんだけど、うちのシショーのとこ行く?」
「シショー?」
「うん、師匠だよー。洞穴に住んでるからちょっと歩くよ。」

そう言うと、今来た道をヘアピン状に進み、いや、道を戻り、町外れの草原に向かった。丘になっていて、そこを登ると左側はちょっとした崖のような勾配になっていて、その下には真っ白な砂浜が広がっていた。
「キレイでしょう?師匠とはよくここで稽古してもらったりね、フィードバックしてもらったり、いろんなことを教わっているの。」
「いろんなこと?」
「うん。星のこととか、地球のこととか、命のこととか、いっぱい。面白い話してくれるんだよ!」
なかなかロマンチストな師匠だ。しかし、一体彼女に何を教えているのだろう。「稽古」と言っているから、何かの技術であるのは分かるが。

「たいちゃん、あれだよ。師匠の家。」
サラが右斜め前を指差した。本当に洞穴だった。入り口には金属製の玄関のドアがある。
「ねえ、ダーリアーン!」
彼女は簡単にノックをすると勝手にドアを開けて中に入った。すると、洞窟の中は照明が灯され、リビングルームのような部屋に通された。というか、彼女と僕が勝手に入って行ったのだが。しかし、洞窟の割に湿気もそれほどなく快適で清潔な場所だ。
「サラ、今日はお客さんつき?キミは何か飲む?」
中から、ヒゲを蓄えた中年の男性が現れた。フードのついた土色のローブを着ている。この人がサラの師匠であるダリアンか、と思いながら
「何でも結構ですよ。」
と答えると、彼はキッチンの方へ行った。

僕らは木でできたオーソドックスなテーブルに着いて、お喋りをしていた。すると、嗅いだことのないいい香りのお茶がテーブルに置かれた。ダリアンはサラの隣に座った。

「サラ、これが、この間話していた人?」
「ううん、彼とは違うわ。彼は来たがらないの。」
するとダリアンは笑みを浮かべて言った。
「キミのツガイ君は優しいからね。きっと来ないだろうな。」
「分かるの?そうよ、私たち意思が強いし、ちゃんと決めたからね!」
サラは少し目を伏せながら強い語気で言った。
「でね、この人なんだけど、たいちゃんていうの。」
「ああ、未来から。」
「そうよ。」
「み、未来って?」
2人の会話についていけず、どこから訊いていいかわからなかったが、やっと口をはさんだ。その瞬間、僕を急激な眠気か襲ってきた。

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