さよならのラブソング

さよならのラブソング - episode 12

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>> episode 11

「それに、『上の立場の人』ってなぁに?誰が偉いの?」
サラが続けて訊いてきた。
「だって、上の立場の人がいるのが当たり前だよ?先に生まれた人、会社に先に入社した人、会社の役職の人。その人たちは僕より偉いよ。だから敬意を示すんだよ。」
僕がそう答えると、サラは未消化な表情でこちらを見ている。

ダリアンがなだめるように言った。
「それは『彼ら』から受け継いだものだね。サラ、未来の人たちは全てを順調に受け継いだんだよ。彼らの階級社会、それで保たれる秩序。そうだとしたら、もしかしたらも何も、破壊的な面も、だね。」
サラは少し悲しそうな表情になった。
「分かってる…、けど…。それってさ、私たちにとっての地球の木や動物たちは偉いけど人間は敬わない、てこと?」
「本来はね、違うよ。木や動物たちは人間よりずっと前から地球に住んでるからもちろん敬うもの。サラが思うように、それと同じくらい地球の人間も敬う必要があるんだよ。サラもその地球の人間の一人だよね?」
「うん。木も動物も大好きだし、ジーランディアの人たちも故郷のオーストラリアの人たちも大好き。だから、ダリアンのお仕事、手伝いたいんだもん。だから家を離れて今の生活をしてるのに。」
「でも、いち早く分離した彼らは木や動物と別れて人間の中で閉じてしまった。だってその方が彼らにとって好きなことができるからね。でも自然と別れたら、自分たちだけで秩序を保って、命を維持していかなくてはならない。コトバを使うんだし、そのために考えるべきことをシンプルにしなくちゃやっていけないのだろう。」

ダリアンはサラの肩をポンポンと叩きながらこちらに向き直って言った。
「この時代ではね、分離開始前の文化もまだ残っているんだ。それがこの島や他のいくつかの大陸にはある。分離開始前は、人間と他の生き物に区別はなくて、立場の違いもないんだ。それぞれに敬うべき点があって、敬い合っていたんだよ。多分、君の時代には、人間同士でしか会話をしていないのかな?でも、ここでは木や動物と人間が話すことも普通のことなんだ。」
「立場の違いもない?綺麗事じゃないんですか?」
立場の違いがないとしたら、どこにモチベーションを持てばいいのだろう?自分が立派に生きているという証明はどうすればできるのだろうか?

ダリアンは笑った。
「男は役に立たなきゃ生きた心地がしない、てことだよね?俺も、家に家族を残してここでちゃんと自分の務めを果たすつもりだよ。って言ったら分かる?上も下も本来はないけど、分離したらそれは表現されていく。だからそれでいいんだ。」
家に家族を残して、か。
「…そういえば、ダリアンさんはかなり遠くから来られているんですよね?」

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