さよならのラブソング

さよならのラブソング - episode 10

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僕は、テーブルの下で自分の腕をつねってみた。確かに痛い。夢じゃないのだろうか。一緒に行動していた若い女性が言うには、現代の東京から、古代のオーストラリアへ移動してきた、というのだ。夢でないのなら、一体これは何だというのだ?
そして、この古代も、時代の転換点にあるという。平和で分かり合えていた時代から「分離」の時代へ。しかも、これは誰かの陰謀ではなく、「みんな」で合意したというのだ。この「みんな」は一体何なのか。そして、若い女性サラは、少し悲しそうな表情でそのことを説明しようとしている。その師匠であるダリアンと一緒に。

「…でも分けてみなかったら分からなかった。」
「…。」
ダリアンの話が途中から上の空になっていた。一瞬、ダリアンはこちらを見て察したように穏やかに僕が聴いていなかったであろう箇所に話を戻した。

「今から分離するのは、何がってこともないよ。レモンにビタミンCが入ってるって知ってるよね?でも分けてみなかったら分からなかった。」
「はい、そうですね。」
「今、ここの星はね、いや今までは、分けて調べてこなかったんだ。基本的に分ける必要なんかないからね。今、ここにあるだけだし、それ以上のことなんか知る必要はなかった。でも、これだけでは繁栄が難しくなってきたんだ。」
「成長と繁栄が…、難しい…、ですか。まだ、僕は今どこにいるのかよく分かっていないのですが、人って、平和を求めて命を落とすこともあるんですよ。そのくらい有ってほしいものではないのですか?こんなに平和なんだったらわざわざ分離させなくても…。」
サラが補足を入れた。
「ずっと続く、それでいい。変わらない平和。私もね、それでいいんだって思ってたの。でも、もっと増えていきたいんだよ。愛も命も。そのためには、今までの平坦な社会だけでは難しいんだよね。『あの人たち』がこの星に文化圏を作ったことも、そういうことを私たちに学ばせる出来事なんじゃないかって。」
計画的分離というのがここの社会にはあって、それはどうも成長と繁栄を求めてわざわざ平和な社会を分離させることのようだ。一体分離とは何が起きてくることなのだろう?そう思っていると、ダリアンがお茶を一口含んでこちらを向いた。

「そうだよ。そのバトンタッチの結果が君たちの社会だよ。君たちは平和を求めている。だけど、俺たちは繁栄を求めている。君たちの社会には繁栄は簡単に訪れる。分離と共に日々新しいことでいっぱいになったことだろう?」
「繁栄というものがどこにあるのかも、僕は分からないです。確かに食うに困ることもありませんし、それなりに毎日を過ごしていますが…。」
「そっか。」
ダリアンは頬杖をついてプイと視線を外の方に動かした。

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