【眼科医インタビュー/第1回】その常識、思い込みかも。ビジネスパーソンの眼を守るために必要なこととは?
人生100年時代と言われるようになりました。それに伴い、ビジネスパーソンも60歳で定年する時代ではなくなってきています。自分のコンディションを整え、現役で働ける時間を伸ばす努力が不可決だといえるでしょう。
その中でも大切な要素の一つである眼の健康維持について、お話を頂きました。
編集部:
眼にとって負担になっていることはわかっているのですが、パソコン作業やスマホを使う時間がどんどん長くなっているように感じています。スマホ老眼という言葉もよく耳にするようになりました。
眼の健康を維持するために、日常的に気を付けたほうがいいことを教えてください。
鈴木先生:
アドバイスとしては、30cm、30分です。
負担をかけないためには、眼を画面から30cm以上離し、30分使ったら休憩を入れる。これを超えると、眼のピント調節筋肉が痙攣を起こしてしまいます。重い荷物をずっと持ち続けていると、体もヨレヨレになってしまいますね。眼の調節機能も筋肉ですから、酷使することで凝り固まってしまい、見えにくくなります。それが「スマホ老眼」という表現になっているのです。
編集部:
30分休憩をしたら、パソコンやスマホを使ってもいいということですか?
鈴木先生:
そうです。
30分使ったら5分遠くを見て、筋肉を弛緩させる。それから、また使うようにしてください。また、手元は明るくしたほうがいいでしょう。
編集部:
スマホの画面の明るさではなく、手元ですか?
鈴木先生:
手元です。300ルクス以上あったほうがいいので、デスクライトをつけることをおすすめします。天井の明るさだけでは足りません。
編集部:
画面の文字を大きくすると、眼の負担は軽減されますか?
鈴木先生:
ピントの調整は、眼と画面との距離の問題なので、大きさは関係ありません。水1kgと綿1kgはどちらが重いですか?と問うようなものです。
癒しの動画など、別の画像をみることも眼にとっては休憩にはなりませんし、眼を温めても疲れ目には効果はありません。
とにかく画面から眼を離して、眼を閉じたり、遠くを見るようにしてください。外の緑をみるのもいいですね。ただし、外が明るすぎるのもよくありません。眼を休ませるためにちょうどいい明るさは、1000ルクスぐらいです。木陰ぐらいの明るさだと思ってください。真夏の日向では明るすぎるので、注意が必要です。
編集部:
眼鏡はどうでしょうか。
鈴木先生:
眼鏡は特定の距離を見やすいように度数を合わせています。近くを見るために作った眼鏡は、遠くを見ることには適しません。できれば遠くを見る時用と近くを見る時用の眼鏡を作り、使い分けたほうがいいでしょう。
編集部:
眼鏡は簡単に外すことができますが、コンタクトレンズの場合は、どうしたらいいのでしょうか?
鈴木先生:
近くがよく見えるコンタクトレンズで遠くを見ていると、距離が合っていないので、眼にとって負担になります。100円ショップなどでも売られている既製品の眼鏡でいいので、見え方のサポートするために使ってみることをおすすめします。
編集部:
コンタクトの上から、眼鏡をかけるということですか?
鈴木先生:
はい。
例えば、仕事で日常的にパソコンの作業が多い人は、近い距離用のコンタクトレンズを家で付けて出勤します。通勤中は遠くを見ることが多いですから、その上から遠くを見やすくするための眼鏡をかけます。仕事中は、眼鏡を外すことで距離にあった度数になるので、眼の負担を軽減できます。休日に外出する時は、遠い距離を見ることが多くなるので、遠い距離用のコンタクトレンズを付けるようにしましょう。 眼鏡は、+2.5程度の度数が理想的ですが、眼鏡をかけ慣れていない人は+1.0から徐々に数字を上げて使い慣れていくようにしてください。
編集部:
眼鏡、コンタクトレンズは距離に応じた度数で使い分けるということですね。
鈴木先生:
個人差もあるのですが、眼の能力が最も優れているのが20歳頃です。眼は筋肉ですから、年齢とともに落ちていきます。35歳を過ぎると、だんだん眼精疲労を感じるようになる人が増えます。40歳を過ぎたら、眼鏡は距離に合わせて2つ用意したほうがいいでしょう。
眼鏡は、使っているうちにコーティングがはがれていきます。レンズに模様が出てきたら、眼鏡の買い替え時です。その都度、今の度数に合わせた眼鏡に買い替えることで、眼の負担を減らすことができます。高価なものを長く使うよりも、手ごろな値段の眼鏡を必要に応じて買い換えるようにしたほうがいいですね。
編集部:
他には何かありますか?
鈴木先生:
パソコンを長く使う人は、やや下目線で画面を見るようにしてください。小さなことですが、目線よりも上にあると、瞼を開ける幅が広くなるので眼が乾燥しやすくなります。ドライアイの違和感を疲れだと勘違いしてしまうこともありますし、別のトラブルの原因にもなります。画面を目線より下にすることで、自然と画面との距離も開きます。
(後書き)
眼を温めても疲れ目には効果がない、文字を大きくしても負担を軽減できないなど、意外な事実を知ることができました。
次回は、ちょっと怖いドライアイの話や、人生100年時代に気を付けたい眼の病気やケアについてお伺いします。
鈴木克則
医療法人社団 復明館 すずき眼科クリニック 院長
平成6年 昭和大学医学部卒業
平成10年 昭和大学医学部眼科学教室大学院卒業
平成6年 昭和大学病院付属東病院
平成7年 昭和大学藤が丘病院
平成9年 富士吉田市立病院
昭和大学病院付属東病院
平成10年 昭和大学藤が丘病院眼科助手