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小豆と読書

いつもの家事を終わらせたあと、小豆を煮た。

ふつふつと豆が熱い湯の中で踊る音がする。
たまたま小豆が1袋あり、餡を手作りしてバタと一緒にパンに挟んで食べようと思ったのだ。
バタの塩気と餡の甘さが絶妙なバタ餡サンド。
今日のお昼には間に合わないから、明日の朝食か、待ちきれなければ夜にバニラアイスクリームと一緒に食べよう。

一度沸騰した湯を捨てて、また水を入れて本格的に煮始める。
1時間したら柔らかくなったかどうか確かめてから、砂糖を数回に分けて入れる。
なにかを煮ながら、なにかをするのが好きだ。
今回の場合も1時間という区切りがあるから、そのあいだどうしようと考える。
それもまたちょっと楽しいのかもしれない。今回は1時間だから、映画を観るのには足りない。

いぬの歯磨きと目の周りのトリミングをしていたら、30分経った。
あと30分、小豆の匂いが漂ってきたダイニングで本を読む。再読のだから軽く読める。そうかこんな話だったっけ。本棚も整理しないとな。
いつの間にか本に没頭してしまって、また気がついたら30分になろうとしていた。
急いで鍋蓋に小豆を2、3粒取って、固さを確かめる。うん良さそう。
いぬ用に砂糖を入れる前のものを少し取っておく。そのあと砂糖をスプーン大にすくって、3回、ドサっと入れる。もう少ししたらさらに足すのだ。

時計に目をやって、10分経ったら砂糖の時間、と御飯のCMの拍子で呟きながら、本の続きに目を落とす。こういうときの10分は早い。危うく忘れそうになったが、ハッと思い出し、ページを確認して、しおりがなかったのでとっさに本を開いたまま伏せた。
キッチンに行って、砂糖をドサドサと入れ、ふつふつとしてきたところで味見をしてみる。

まだ、そんなに甘くない。
水が多すぎたかな。
再度、砂糖を入れて、さらに10分煮る。伏せていた本を開くと65ページだった。10分で読める量は多くない。71ページめでまた席を経ち、鍋の様子を見る。念のための味見だけど、砂糖はさっきので充分なはずだ。

あれ?まだ、そんなに甘くない。
煮汁もシャバシャバだからかな。
少し捨てて砂糖足してさらに煮詰めていこう。砂糖を多めに入れる。
熱湯小豆地獄の中に、許してください〜という感じで砂糖が溶けて消えていく。なぜだか、シュワルツェネッガーが高温の溶鉱炉に親指を立てながら沈んでいくシーンを思い出す。
砂糖が溶けるのは早いが、10分というのは待っていると意外と長い。さっきとは違う10分。
本を手に取って読み始め、しばらくしてから、さっき読んだ65ページだと気がつく。少し読んだはずだったけど、伏せるときに間違えて戻しちゃったかな。確か71ページまでは読んだはず。ページをパラパラと進ませて71ページめからまた読み始め、そうこうしているうちに10分経った。

さすがにもう入れる必要ないでしょ、と砂糖の広口ビンにふたをする。
小豆を木べらでそっとかき混ぜる。まだ餡という状態のものじゃないが、後はもう少し汁気がなくなるまで煮ればOKなはず。
ダイニングテーブルに戻り、本を開く。
65ページ。さっき読んだはずの65ページが、わたしを待っていた。
もしやと思い、砂糖の広口ビンを手に取る。
砂糖がまったく減っていない。

砂糖を、砂糖を、わたしは砂糖を何回入れた? 
今、今もここに、確かに。
ほら、見て。

静かに砂糖が溶けていく。







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