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お願いだから


同じチームのタケ君は最近具合が悪い。

今年、初めから入院して、2週間ほどしてげっそりと痩せて退院して、その後は出勤していたが、5月の終わりの土曜日、週末でたまたま出勤のわたしと二人しかいないオフィスで、先に来ていたタケ君が、わたしが席に着くなり「今日、ちょっと、だめかもしれないです」と小さな声で遠慮がちに言った。
見ると、マスクをしていてもわかるくらい顔色が悪い。
相当がまんしているのだろうと思った。

痛むの?すぐ帰って。帰りにクリニックに寄りなよ。いや、午前中きっとばたつくと思うんで、もう少しいます。でも、いても仕事にならないよ、帰ったほうがいいよ。大丈夫です、もう少しだけ。いやいや、身体の方が大事だから。

という会話を何回も繰り返して、バタバタと仕事も間に挟みながら、なんだかんだ2時間くらいして「やっぱり、すみません。帰ります」と赤黒い顔のまま、うつむいて観念したように言った。 
そして日曜日に「月曜日にしようと思ってたんですけど、いま病院にいます、すみません」とショートメールが来て、そのまま、また入院してしまった。

なにが原因かって、その病のことを聞くと、みんなが、それはお酒でしょ。と言う。
まあそうなんだろう。
摂取したものを消化するために働いている臓器が炎症を起こして、痛みを誘発している訳だから。
ひどくなると最後には自分で分泌している液で、自身をも溶かしてしまうらしいです。とタケ君が説明してくれた。そして、そんな風に自分で自分を溶かせるならいいかと思ったけど。痛すぎて。とマスクの下ですこし笑った。

一緒に笑ってあげるしかないわたしは、ありきたりの、しばらくお酒はやめるしかないね。お願いだからぜったい無理しないで。とか言うしかなくて、見送ったあと、どんどんお酒を呑むしかないタケ君のこころと夜を思って、ひとり残ったオフィスで泣けた。




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