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ようこそ、A-SPECへ#03 | 「決める」が楽な世界を

■シリーズ紹介:A-SPEC開発ブログ
パブリックトイレ空間を自動設計するクラウドサービス「A-SPEC」の開発チームブログ。A-SPECって一体どんな人がつくっているの?、どんなことを考えてつくっているの?など、開発者からのお便りをお届けします。
\ 前回記事も併せてどうぞ /
ようこそ、A-SPECへ#02 | トイレ設計はA-SPECにお任せ
by AMDlab 藤井 章弘



はじめまして。株式会社AMDlabでCTO(Chief Technology Officer)、つまり技術の責任者をしている松原です。
 
弊社CEOの藤井がAMDlabについて、すでに熱のこもった話をしてくれていることでしょうから、私はA-SPECの話から始めさせていただきますね。


初めての計算結果

さて、記事をお読みの皆さん。
A-SPECをすでにお使いいただけたでしょうか?
使ってみて、バババと現れた配置に驚きを覚えたのではないでしょうか?

想像していた・想像してなかった配置に「おっ」と思われたりしませんでしたか?

開発中の計算結果画面

私は当時、プログラムを書いて画面を作っていた唯一の人間でしたので、この世で最初にA-SPECの計算結果をWebブラウザで見た人間とも言えるでしょう。
そんな私が、初めて計算結果をGoogle Chromeに表示させた時は、私も驚愕したものです、ある意味。

「なんだか、どれも同じじゃないか?」と。
 

どうやら自動設計のアルゴリズムも初々しさを残していて、似通った配置ばかり提示してしまっていたんですね。ですが、よくよく見てみると、細かい部分で違いがあることに気付きます。
 
ベビーキープとおむつ交換台が逆になっているような分かりやすいものはなく、僅かに器具と器具の隙間が大きかったり、手摺りがちょっとだけ上についていたり、データベースの数字をみて、ここかと、やっと分かる程度には小さな違いの結果ばかりでした。
 
アルゴリズムの方で各パターンの差が小さくなりすぎないように、制限は設けられているものの、生成された結果を評価している部分もまだ成長途中でしたので、そんなことが起きたわけです。

「決める」が多い仕事

私は以前、建築の設計事務所で働いていたことがあるのですが、コンペやプロポーザルに関わることが大半で、ディテールを描くことは少なかったんです。

トイレなど、一級建築士の製図試験で書いたトイレが、人生でもっとも詳細だったと言わざるを得ないかもしれません。ですので、トイレの器具をどう正しく配置させるかなどは、正直、考えたこともありませんでした

 

話は変わりますが、先日、知人の設計士たちと建築家の設計した住宅へ訪ねる機会がありました。
建築士たちは、「よくここの上枠、壁の面に揃えられたね」とか、「やっぱりここの目地は合わせるよね」とか、そんな話が飛び交って、その内容の細かさに感心はもちろんしたのですが、それよりも、その形に落とし込むまでの取捨選択は、いったいどのぐらいの数だったのだろうかと、思いを巡らさせられました。

議論が飛び交った開口

まず、これは決まっていることが多いですが、敷地の選定や建物の用途を決定することから始まり、次に、敷地内のどの位置にどの程度の大きさの建物を配置するのか、粘土をこねくり回すような作業をしながら、無限に近い選択肢を数パターンに絞り込んでいきます

さらに、建物内部の設計に移ると、各フロアにどのような部屋を配置するのか、建物内を動く人の動きもイメージしながら、必要な部屋を想定し、答えのないジグソーパズルを何度も組み立て、加えて、壁の仕上げ、照明の位置、窓の遮音性能など、より細かい単位での意思決定を3次元的に行っていくのです。

「決める」を少なくする

ITの仕事をしていると必ず出てくるワードがあります。
自動化」です。

もちろん、お客さんの口から出てくる「自動化」は、業務を効率化し、コストダウンさせることを目的としていることが主ですが、結局これは、何度も何度も求められる「決める」を、少なくすることで、業務を効率化するということなのだと、私は思うんです。
 
スティーブ・ジョブズも、着る服を一種類にして決断することを減らしていた、という逸話は有名ですが、「決める」ことに使うコストは、時間的にも金銭的にも気持ち的にも体力的にも大きく、それを減らすことが、仕事そして生活を楽にする要素なのでしょう。
 
今では、A-SPECも様々な調整が行われ、目に見てわかるような違いのある結果が表示されるようになっていますが、本来ならあっただろう、”mm単位の「決める」”をプログラムが省き、「決める」コストを最小限にしてくれていると言えるんじゃないでしょうか。

想像しなかった「決める」

A-SPECの開発が始まった頃、AMDlabは起業したばかりでしたが、ありがたいことに問い合わせが多く、様々な業種の方からお仕事の話がありました。

当時はコンピューテーショナルデザインを売りにしていたものですから、捻れた形状を作るとか、デコボコした形状にするとか、独創的な形状をプログラムで作るお仕事が来るのかと待ち構えていたのですが、実際は〇〇を自動化したいという話がほとんどでした。
 
それらの案件は、ただ単にフローを自動化する、まるで「一本道をいかに速く走る」かという感じでした。世に広まってきているRPA(Robotic Process Automation)なども、その類いなのでしょう。

それに対してA-SPECは、「どんな道があるか」を素早く示すことを目指し、実際そのように成長させることができたな、というのが、今の私の感覚です。
 
とあるシステムの見積についての本では、人間の脳では100%の見積はできないと明言されていますが、脳が想像できることには限界があるというのは私も同意見で、自身の脳だけでは、あるはずの「決める」べきポイントを見つけられず、どこかに置いてきてしまうのだろうと思います。

その見えていなかった「決める」べきポイントが示されるというのは、効率化とはまた別の意味でのA-SPECの大きい特徴だと思います。いえ、もしかするとそれも効率化を助力してくれているのかもしれないですね。

AIとA-SPEC

少し話を変えまして、近年はAIだAIだと騒がれており、OpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)やMetaのマーク・ザッカーバーグCEOが来日して岸田首相と面会していましたが、国もAIに力を注いでいく姿勢を見せてくれています。

ChatGPTに設計をさせようとしている私

A-SPECもAIの1つです。ただし、OpenAIのChatGPTやAnthropicのClaudeのようなのとは、仕組み的に大きく異なります。
裏側に学習をさせたモデルがあるわけではないですし、曖昧な内容を投げて、回答が返ってくるようなものではありません。
 
ある程度のルールを組み込み、そのルールに基づいて入力された様々な値を、数理的に最適化し、評価して点数をつけ、その点数の高いものを表示させるという仕組みなのです。「確率的に解く」のではなく、「確実に解く」という大きな違いがそこにはあります。
 
 
アマゾンなどのECサイトで、商品を買うとおすすめがでてきたりしますが、あれも学習モデルなどを用いず、数理的に解いているものが大半です。
いくつかやり方はあるのですが、協調フィルタリングというやり方では、購入した物の情報、購入履歴やお気に入りの履歴を使って、おすすめする商品を計算して出しています。
コサイン類似度やユークリッド距離といった数理的な方法で、どれだけ似ているかを算出するのですが、ブラックボックスではない一定のルールから解を導きだす分、理解もしやすく、人の手による調整もしやすいので、どうしてこうなったと白目を剥くことは少なく済みます
 
建築は、数値にうるさい仕事の1つです。少し線がズレれば、機器が搬入できないなんてこともありえます。そのため、確率的に結果を出す曖昧でブラックボックスな仕組みではなく、確実にルール通りに出てくるものが、建築という業務に合っているのではないでしょうか?
そんな理由もあって、A-SPECは数理的に解決する方法をとっているのです。
 

ただし、時代は流れました。
最近では、そのブラックボックスを見えるようにしようと、XAI ( Explainable AI ) というものも生まれてきてはいます。

また、MetaのSceneScriptなどは、これは壁、これは窓、これは椅子と、空間をスキャンしながら、その「物が何か」という判断と、その「物の形」を取得することができるようになっているのですが、その内部では大規模言語モデルで用いられるようなコンセプトを踏襲して、「魚」の次に「食べる」か「釣る」かが来るという予測をするように、「壁」の次には「窓」がくるというような予測をすることを利用してスキャンをしています。

例としては少しわかりづらかったですね。

ですが、確率で確実な値を出す仕組みが多く世にでてきているのです。つまり0か1かを必要とするなら数理的に解いた方が良いとは言えなくなってきているんですよね。
 
数理的に解くということは、すでに人の脳で想像して絞ってしまっているとも言えるかと思います。もし、こういった新しいロジックや仕組みが数理的に解く以上の効果を発揮できるのであれば、確率的に解く仕組みにすることで、さらなる「決める」を生み出すこともできるのかもしれません。

まとめ

「決める」という点から話をしてみました。

A-SPECは、想像もしていなかった「決める」を生み出し、多すぎない「決める」を提供して、「決める」を楽にしてくれるサービスです。
是非、ご活用いただければと思います。
 
それでは、良い「決める」を。

筆者紹介

松原 昌幹  /  株式会社AMDlab 取締役CTO
神戸大学大学院(槻橋修研究室)卒業。大学院時にタンペレ工科大学に留学。 大学院卒業後、株式会社安井建築設計事務所に入社。2017年に株式会社フロムスクラッチに転職し、Webエンジニアとしてシステム開発に従事。フロムスクラッチ退社後、東京大学T_ADS (小渕研究室) の学術支援専門員になると同時に株式会社フォースタートアップスに入社。2019年に AMDlabを設立し、現在建築業界DX化を進めている。A-SPECプロジェクトでは主に、Web画面領域開発を担当。
■関連リンク
X:@amd_miki
HP:AMDlab

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