クラフト氏の朝
三角帽子を引っこ抜き、床に投げて舌打ちを一つして、クラフト氏は起床した。
ペットのクラゲが百本足で水槽から捩り出て、寄ってくる。
「やあやあ。パイをたらふく頂いたよ。」
「そろそろドレスを変えたらどうかね。」
クラゲの服は嘗てオウロラ色をしていたが、今は生活に疲れて茸のかさのようだった。
クラフト氏は左手をつきながらゆっくり立ち上がり、窓際の自動演奏グリインのもとへ寄る。
「あまりご機嫌ではないな。雨をやろう。」
天井からぶら下がった硝子の鎖を引っ張る。雨は小雨だった。
部屋中が湿気を帯びて、クラゲのドレスより綺麗な茸がぬくぬくと生えてきた。青色と蛍光緑のものが多いようだった。
クラフト氏はこれも床に投げ捨ててあったバスローブを羽織り、小雨の寝室を出た。クラゲも隙なく、後をついてきた。
台所に行くと、クラゲの言った通りパイは平らげられていた。仕方ないので、朝食は壊れた時計にバターを乗せて温めたものにすることにした。
「これはね…なんだかお堅い味なんだな。」
「時間というのはそういうものさ。」
クラゲが相槌を打った。
空に上る仕事の時間が迫っていた。クラフト氏はシャワーを省略し(小雨も浴びたことだし。)、綿の部屋へ移動した。
綿たちは今朝ももわりと盛んに動き回っていた。クラフト氏は目を凝らして端っこをなんとか捕まえ、急いで足先から耳元まで巻きつけ、最後はマッチでもう一方の端を燃やして切った。
これで慌ただしい朝が終わる。
クラフト氏は七時きっかりに宙に浮かび始め、空へと上っていった。
クラゲはしめしめと隠しておいたおやつを食べることにした。すると朝だというのに雷が家に落ち、クラゲは死んでしまった。
空は晴れている。万事順調な朝である。
おたすけくださひな。