【番外編】花音の物語|猫の扁平上皮癌
命日なので、ゆずの初めての家族、花音のお話しを少し。
2000年の夏、教え子のアパートのドアの前に佇む子猫が現れ、放っておけず部屋に招き入れたその子から夜中に電話をもらいました。
「なんか、死にそうなんだけど、どうしたらいい?」
子猫は重度の風邪を引いているとのことで、目の拭き方、水の上げ方などを伝えました。
翌日病院に連れていくといっていたけれど、また電話がきて
「頭にくるんだけど?もうじき死ぬからそこらへんに捨ててこいってさ!!!」
と。聞くと頭からノミとりの薬をスプレーされて、飼わないなら捨ててこいと言われたと。風邪の治療もなく…。
「預かろうか。里親決まるまで。どうせしばらく徹夜だし面倒みれるよ」
なんかそういっている自分がいました。
テレビ局勤めのその子だと家に帰れないこともあるので、大変だろうと思って言ってしまったものの、我が家は猫一匹の契約、なので里親探しはちゃんとやってね、を条件に預かりました。
仕事の休める教え子らが結束してソッコーバイクで連れてきた子猫は、結膜炎でまぶたがめくれて外側にくるっと膨れあがり、鼻水で息も必死…正直生きられるかな、という状態でした。
その頃うちにいた陣を可愛がってくれてる信頼できる獣医さんのところに連れていき、風邪の治療をしてもらいました。
「この子は美人さんになるぞぉ〜♪結膜炎の薬がんばってな」
と言われました。
大きなお口をあけるのに「…ぃ」くらいしか声がでないこの小さな子猫を見ていて、花の声のように小さなこの子の声を聞き逃さないようにと、仮で花音と名付けました。
箱入り息子の陣、最初はおっかなくておどおどしてしまい、ママを求める小さな花音は陣に甘えたくて、必死で様子を伺って、そーっと近づいて背中に寄りかかろうとしました。
が、とてつもなく小心者の陣はむしろそーっと近づいてきたことにびっくりしてしまい、思わず立ち上がってしまい、花音は寄りかかろうとしていたのでコロンと頭から床に転がってしまいました。
「………😿」
ごめんっていう顔した陣を呆然と眺めている花音の背中は「…甘えられないんだな…。」と悟ったようでした。
それ以来、花音は陣には甘えようとはしなくなり、だれのお膝に乗ってようとも、私を目で追うようになりました。
風邪の治療をして、ごはんを食べさせてくれるこの人をみてると安心という感じで、太陽を追うひまわりのように、いつどこでどう見てもこちら向きになってる、可愛い子猫になりました。
獣医さんに里親が決まらないので同時に募集してほしいと相談し、写真を撮るよう言われて、当時はフィルムだったので、とにかく沢山撮りました。
風邪がよくなってくると、メキメキ体力も回復し、あの時ひどかった!と言わんばかりに陣に飛びかかるじゃじゃ馬娘に成長した可愛い姿を沢山沢山撮りました。
そして現像し、先生に持ってく写真を選別しおえた夜、
「ねー、なんか花音の様子がおかしいんだけど💦」
居候してた友達がごはん食べてた花音の異変に気づきました。
寝床にしていた小さな箱から転げ落ち、震えていたので急いでケージから出してキッチンにつれてくると、眼振に痙攣、もう頭をもたげる力もなくぐったりして、意識ももうろうとした状態でした。
うちのお世話になってる獣医さんは留守電に伝言いれたら何時でもかけてくれる先生なので、ためらいつつも留守電を残して何度か電話しました。深夜なのに。
花音は私が呼びかける声が少し聞こえるようで、声のするほうへ頭を向けようと必死で震えながら動いては転がるのを繰り返していました。
深夜2時。
先生から折り返しの電話が奇跡的にかかってきました。
「ごめん、遅くなったけど…残酷だけどまだ生きてる?」
生きてます!動いてます!
「もう20分ともたない状態だと思うから、またかける、手の施しようがない」
それから30分ほどしても、花音は私の声を探してました。耳元で花音の名を呼ぶと顔を必死に持ち上げてました。声のするほうへするほうへと。
「生きてる?本当に!?そうか、、、今すぐ来れたりする?途中でだめになるかもだけど」
そう言われて覚悟しながらタクシーで向かいました。
到着し、バックから花音を出してみると、なんと、自分の足で地面によろよろと立ち上がり、歩こうとしていました。
先生もびっくりし、
「いやぁ、もう発作から何時間!?奇跡だわ…眼振まだあるけど脳圧下がってきてるんだこれ…」
そういって、脳圧を下げる注射をしてくださり、大丈夫なら朝一でもう一回きて、と言われました。
家に帰り、ケージに入れて私も仮眠を…と横になりました。
顔になにかあたった感触で目覚め、……ぇ?砂?え?また飛んできた…これなに…と思って起き上がると、ケージからこちらをみながら、大きなお口をあけて「…ぃ!!!!」と言いながらトイレにあるものを片っ端から私にめがけて飛ばしてる花音の姿がありました。
「ママ!!!ママ!!!花音、生きてる!!!」
そう、言っているようでした。
病院へ連れていき、処置をしてもらうものの、
「たぶん3ヶ月ともたないと思うから、陣ちゃんママさんちの子にしてあげて看取ってやって?次の発作がきたらもうたぶん…。絶対安静、走ったりびっくりしたら発作起きるから」
そう言われて帰ってきました。途中の道でボロボロに泣きながら。
死なせたくない、絶対に死なせたくない…
苦渋の決断でした。
やんちゃでじゃじゃ馬な花音を絶対安静な環境で育てるには…と考えぬいた末、リードでつなぎ、走り回れないようにしつつ、ケージの中にトイレ、上にベッドを作ってジャンプする程度の運動はさせる、そんな環境での暮らしをさせることにしました。
発作後、成長がほとんど止まってしまい、新しく物事もなかなか覚えられず、遊びはじめるとセーブもきかず何時間でも続けてしまう勢い、体温調節もうまくできないのか暑くても布団に潜る子になりました。
びっくりさせないよう、掃除機かけるときはキャリーにいれてお風呂場に避難させる、など、日常に細かな制限もかかりました。
かつ、その後陣も花音もFIPキャリアであることが判明し、ふたりが接触して濃厚接触による重複感染で発症するのを押さえるために、キッチンと友達の部屋は陣のテリトリー、花音は私の部屋でリードの範囲だけ動ける状態で2人と暮らすことになってしまいました。
来客にはハイターで手を消毒してからふたりに接してもらい、こちらも片方をなでたらハイターで消毒する日々…すべては重複感染を防ぐためでしたが、気をつけなきゃいけないことがありすぎて、陣にはかわいそうなことをしました。
大好きなママの部屋に入れない、という状態にするしかなくなったのです。賢く優しい陣は、敷居をまたがず、キッチンのギリギリのところから部屋の中を眺めるようになりました。
「陣、入ったらだめなんだよね😿」
それでも3ヶ月と言われた月日は軽く超え、なんとか発作未満の状態で何度か危機を乗り越え、花音9歳の時に陣は旅立っていきました。
物事を認識するのに時間がかかる花音は、陣がいない、と、何日も探して歩いていて、思い出も辛く、友達と私は時期もタイミングも丁度よいかも、とその後すぐにシェアをやめて引っ越ししました。
9歳の花音は、命が危ういときに聞こえた自分の名前を呼ぶ声の主であるママが絶対的な存在となっていて、完璧に言うことをちゃんと聞く猫に育っていました。
そしてシニアにも入っていたので、もう走り回り続けることもなく、大丈夫かな、と思えたので、引っ越し先ではリードを徐々に外していきました。
新しい家がなんなのかわからなくて、「ママ帰ろう、陣いない、友達もいない、お家に帰ろう」としばらくいってました。
なんとか新しい家で、花音の残りの人生の中で嬉しいとか楽しいとか思えるものをあと一個だけでも覚えさせてあげたい、と思い、ママとふたりで朝はベランダでひなたぼっこをする、ということをやってみました。
徐々に、あったかくてぽかぽか気持ちいいことがわかってきたのか、ベランダで食べる朝ごはんを用意していると
「ぽかぽか、いく?」
と、楽しそうに待ってるようになりました。
まだ覚えられる!と思えてとても嬉しい瞬間でした。
そして陣が旅立ってから半年後、ゆずがやってきます。
受け入れられなかったらどうしよう…と思いながら合わせてみると、興味津々で花音から近づいていき、いきなり遊ぼうと誘ってしまい、子猫なゆずのほうが戸惑ってしまっていました。
「陣じゃない。でも遊ぼう。」
そう言っているようでした。すぐにおもちゃで一緒に遊びはじめ、すんなり打ち解けた2人。
ある日仕事から帰ってくると、ゆずのトイレの横に佇む花音が
「ママ、この子、変。この子、変。」
と言ってきました。直接頭の中でそう聞こえ、ゆずのことまだ覚えられないでこの子、って呼ぶんだな、と思いつつ、
「どした?なにが変?」
と自然に会話してる自分がいました。
トイレにはゆるくなったうんちがあり、お腹壊したのを心配してくれたのかなと、片付けながらお礼を言うと
「この子、変。絶対変!!!」
何度もそう繰り返してきました。なんかおかしいなと、トイレを解体してシートを確認すると、血尿なりたてのおしっこのあとがあり
「これか!」
と言うと「そゆこと♪」と言って部屋に戻っていきました。
血の匂いがしたのでしょう。ゆずの初めての体調不良を花音が教えてくれ、初期の尿道結石は投薬のみですぐに治せました。
ゆっくりと、陣とは違うゆずの存在に慣れていき、距離を縮めていく花音の姿がたまらなく愛おしい時間でした。
「ゆず」と覚えられなくても、存在は受け入れてくれて、自分から取っ組み合いをしかけて遊んだりしてくれました。
ただ、花音は麻酔ができないと判断し、避妊手術を受けていなかったため、ほぼ毎年半年は発情期のにゃごにゃご花音になってしまうため、距離を保つために、今度は去勢手術できるまでゆずをリードで拘束する暮らしが始まってしまいました。
その距離を花音は上手に活用してくれ、疲れたらリードの届かない場所にいき、遊びたいときはゆずに近づいて遊んだりしていました。
ところか、肝臓の数値がよくなかったゆずも麻酔ができず、肝臓の治療に2年の歳月がかかり、リード暮らしが長引いてしまいました。
その間にもホルモン分泌異常が発症してしまい、皮膚炎だらけで血だらけの日々…傷口がぱっくり空いたままの状態などもあり、ゆずも大人しくしている時間が多く、リードをあまり気にしておらず、2歳半でやっと去勢手術を受けることができました。
やっと去勢手術ができ、ホルモンも減り、皮膚炎はみるみる消えてキレイな皮膚に戻りはじめ、徐々にリードを外している時間を増やしながら、花音が慣れてくるのを待っていました。
しかし、去勢手術から半年後の夏の暑い日、突然吐き出し、吐き気が止まらない状態に陥った花音を一晩中ドキドキどうしようどうしようという顔をしながら見守るゆずの姿がありました。
徹夜して見ていました。うとうとしながらも。
翌朝、病院にいくと
「ママさんごめんな…余命、2〜3日だわ。末期の肝臓癌と末期の腎臓癌抱えてますわこの子…。でも、さっきまで普通だったっていうの、証拠もちゃんとレントゲンに写ってるから見て、ほら、うんちができてお腹に入ってる。これ、さっきまで食べてたって証ですよ。こんなの、誰にも癌なんて気づかないですよ、さっきまで遊んで甘えて、食べて、トイレもしてて、半年前にやった検査でも肝臓の数値おかしくなかったもん。親孝行な子だよこの子ほんとに。いろいろ抱えてたのに。楽しい嬉しい、ここに居たい、ただそれだけで必死に生きてた証がレントゲンに全部詰まってるよ」
そう、告げられました。
わけがわからず、ボロボロと話しを聞きながら泣いてました。
明後日とかにはいない、ってこと?と。
ゆずになんて言ったらいいのか…と考えながら、花音と帰宅しました。
とても心配していて、ソワソワソワソワして花音を見ているゆずに、全て話しました。
しかし、それからも毎日皮下点滴を受けに朝一で病院へ行き、帰ってくるとトイレはちゃんとトイレに入ってし、不安になるとゆずの側にいき、ゆずのほうが頼られて焦って「おかーーーーん💦💦💦」と私を呼ぶ、というのが数日続き、4日ほど経つと、38度の猛暑日だというのに洗濯を干している私と一緒にベランダにでると言い張り、よろよろと立ち上がってベランダにもでました。
よほどぽかぽかするのが気に入ってたんだと思います。
これが最後になりました。
翌朝、陣に導かれ、花音は旅立っていきました。
楽しかった、と言い残して。
葬儀の翌朝、もう必要のない、ゆずのリードをそっと外しました。
ありったけの隙間を覗き歩いて、花音を探していましたが、花音が見つからず、ゆずはいつものカゴにいると思っていたようで、棚の上のカゴをずっと見上げていました。
翌日、帰宅するとカゴがころんと床に落ちていて、がっかりしたゆずがいました。
カゴの中を見てしまって、もう花音はいないのだ、と、知ってしまった瞬間に家をあけていて申し訳ない気持ちになりましたが、花音が旅立っていったことを、花音との日々を、毎日話していると、左目からぽつんと一粒、涙を流すゆずがいました。
とても不思議な話しですが、初七日まで毎日一粒、涙をながしていました。
1年後、今一緒に暮らしている美怡介がやってきて、元気に
「僕はゆず!遊ぼう!」
と、言ってしまってドン引きくらったゆずがいました。花音に受け入れてもらった時のことを思って、そうしたのだろうなと思いました。
沢山のねこたちと暮らしてた美怡介にはびっくりな展開すぎて、大失敗でしたが、ゆずの無邪気な誘いに根負けしたのか、すぐに打ち解けました。
「運命的な出会いだった。ゆずは相棒」
今はそう言ってくれてます、美怡介。
その後引っ越しし、仲良しなゆずとみーに、またひとりぼっちを経験してほしくないなと思い、琳花を迎えて、現在の3ねこ暮らしをしています。
そこで琳花が
「花音は会ったことないけど知ってる。魂が親戚みたいなかんじ。花音がママに見つけてもらえるように、一生懸命見た目とか体調とか、生まれかわる準備してたのは知ってる。いたずらしてそれに入ったらわわわわわーって生まれちゃった😹💦」
と、アニマルコミュニケーターさんとのセッションでメッセージを伝えてくれました。
あの子は、また、私の所に戻ろうと必死に考えてたんだ、
11年経って、そんな花音の想いに触れることができました。
今度は元気な体で、沢山走りまわれて、沢山食べられて、ゆずと沢山取っ組み合いをするんだ😺✨
そう、言っているような日々の琳花の姿を見ていると、不思議と花音のいない寂しさが消えていきます。
花音的には横取りされたー😿💦💦💦かもしれませんが😂
ありがとう、花音。
ありったけの体力と食欲を搭載して、2kgの小さな姿で、そっくりの姿でやってきた琳花、ちゃんとママ見つけたからね。
これからも、この子らを、見守っててね。
小さな花音の、大きな大きな物語でした😊😺❤️
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