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僕の一生の誇りだ。

あれは今から7年ほど前。

僕が今よりもっともっともーーーーっと無名で、芸人としての仕事といえば、月に一回、自分たちでお金を出し合って会場を借り、開催するお笑いライブぐらい。

仕事もない!
お金もない!
彼女もいない!
もう35際。

そんな日が永遠のように感じられていた頃、ある人物が僕のツイッターをフォローした。
プロフィールを読むと、映画監督と書いてある。
僕はあわてて

「フォローありがとうございます!よろしくお願い致します!」

メッセージを送った。
すると奇跡が起きた!
その映画監督から、僕主演のドキュメンタリー映画を撮りたいと依頼が来たのだ!

ついに来た、
スターの仲間入りだーーーーーーーー!!!!!!

まてまて、そんなうまい話があるわけがない。
まずは監督の名前。
島田角栄。

知らん。
全く知らん。
ネットで調べてみる。
どうやらいくつも映画を撮っているっぽい。
TSUTAYA にも DVD が並んでいるようだ!

すごい!

ついに来た、
スターの仲間入りだーーーーーーーー!!!!!!

監督の気が変わらないうちに、すぐ返事を書かなければ!
でも、こちらが浮き足立っているのを悟られるとかっこ悪い。
ここは冷静に、クールに返事をしよう。

「ありがとうございます。僕でよければ是非よろしくお願い致します。」

完璧だ。
ちょうど良いクールな返事が書けた。

するとすぐに返信がきた。
その日のうちに何度かメッセージのやり取りをして、

「来週、撮影に伺っても良いでしょうか?」

急っ!!!
来週!!!!!!
うほーーーーーーーーーい!

隣にいたヘルパーさんにすぐ自慢した。

「映画の主演が決まったんよ!劇場公開されるんだって!今日依頼が来て、来週撮影スタートだって!」

「あ、それ騙されるやつっすよ。」

「え?」

「最近流行ってるらしっす。途中で制作費が足りなくなったとか言って、お金を騙しとるやつ。」

「そうなの!!?」

「どうせ SNS で依頼が来たんでしょ。」

「うん。」

「じゃあもう確定っすね。」

僕は最大級の警戒心を持って、監督と会うことにした。
騙されないぞ。

<撮影初日>

その日は、 僕が出演するお笑いライブが開催される日でもあった。
初めて会う監督は、ライブ会場で僕を待っているという。
ドキドキしながら会場入すると、Tシャツにジーンズ姿で小太りのおじさんが、一眼レフカメラ一つだけ首にぶら下げて僕の方に近づいてくる。
無骨そうなそのおじさんは、お世辞にも綺麗とは言えない。
まさかこの人が

「初めまして。映画監督の島田角栄です。この度は、ほんまにありがとうございます。今日からよろしくお願いします。」

見た目とは裏腹に、丁寧な挨拶をする人だ。
でも騙されてはいけない。
周りを見渡すと照明さんも音声さんも、撮影スタッフらしき人は誰もいない!

「監督お一人ですか?」

「はい。」

騙されるやつだーーーーー!!!

初めてだからよく分からないけど、映画ってたくさんのスタッフが必要って聞いたことがある!
これは怪しいぞ。
そして僕は決めた。
絶対に心を開かないでおこうと。

その後監督は、ライブの出演者だけではなくライブスタッフにも一人一人全員に丁寧に挨拶を済ませ、ライブが始まるとお客様の邪魔に一切ならないよう撮影を済ませた。

無事ライブ終了。

僕は、いつものように近くの公園へ急いだ。
トイレをするためだ。
ライブ会場のトイレは、僕のストレッチャーが入るスペースがなく、ライブのリハーサルがある午前10時から、ライブが終わる午後4時頃まで、僕はトイレに行くことができない。
だからいつも膀胱パンパンになりながら、公園の公衆トイレへ急ぐ。

と言っても、近くの公園に車椅子用トイレがあるわけではない。

一般的な男性用トイレに無理くり入り、立って用を足すスペースの通路を少し塞ぐ形でポジションを取り、尿器(尿瓶)を使って用を足すのだ。
他にトイレがないので仕方がない。

トイレへ駆け込む瞬間、監督が僕に声をかけた。

「見ててええか。」

初対面なのになんてデリカシーのない人だ。
監督は公衆トイレの入口付近に立ち、横目でこちらをうかがっている。
僕は監督を無視して、トイレ内の通路を少し塞ぎつつ用を足し始めた。

ちょうどその時、サラリーマン風の男性がトイレに入ってきた。

僕が通路を塞いでいるので、横歩きで隙間を縫うように入ってくる。
それを見ていた監督が

「あ、すいまへん。」

軽く頭を下げた。

僕もサラリーマン風の男性に

「すみません。」

と言った。
なんてことない、いつもの光景だった。。。

トイレを済ませスッキリ顔で出てきた僕。
でも監督は、なぜか暗い顔をしていた。
そして急に深々と頭を下げたのだ。

「あそどっぐ、すまん!俺を許してくれ!」

僕は意味が分からずにキョトンとしていた。

「俺はあの時、謝るべきやなかった。あそどっぐはただトイレで小便してただけや。なんも悪いことしとらへん。でも俺はあの時、後から入ってきた人に謝ってしもうた。ほんまにすまん!どうか許してくれ!」

監督は、なんて真っ直ぐな人なんだろう。
あれからもう7年も経つのに、この時の光景は今も鮮明に覚えている。
監督に映画を撮ってほしいと思った。
この人に任せておけば、絶対いい作品ができる。

その後の撮影は、久しぶりに相方ができたような、そんな楽しい笑いに満ちた撮影となった。

そして数年後、映画は劇場公開された。
もちろん僕は、お金を一銭も取られていない(笑)
出来上がった映画は、素晴らしく下ネタ満載だった。

これでこそ、芸人あそどっぐのドキュメンタリーだ!

島田角栄 監督
あそどっぐ 主演
ドキュメンタリー映画『寝たきり疾走ラモーンズ』

僕の一生の誇りだ。


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