![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/85503149/rectangle_large_type_2_6f01714b2c85bb3896d256472224c964.png?width=800)
天皇と備長炭
今回は皇室と備長炭に関するたんなるコラムです。
こんな方に読んでほしい
・皇室の食事に興味がある方
・古い書籍がお好きな方
・小説、ドラマ『天皇の料理番』が好きな方
今回伝えたいこと
・天皇の料理番秋山徳蔵さんが書いたエッセーが面白かったこと
こんなことが書いてあります
・天皇の料理番秋山徳蔵さんの本の抜粋
・『秋山徳蔵選集』が登場する三国清三さんのYoutubeの紹介
・宮内庁は現在、備長炭と黒炭をなにに使用しているのか
天皇は毎日なにを食べているのか?
宮内庁に備長炭を納品するという仕事を15年間続けてきましたが、今年3月に後任に譲りました。
納品は年に1度のことですが、倉庫で備長炭の箱を積み上げるたびになんとなく考えていたことがあります。
・私が天皇のために料理を作るなら、何を作るか?
・そもそも備長炭は何に使われているんだろう?
もし私が天皇の料理番に選ばれたら、メニューについてむちゃくちゃ考えて、むちゃくちゃ緊張すると思います。
それが料理番ともなると1日3回のことですからね。いったい毎日どんな食事をしてるんだろう。
『天皇の料理番』というドラマの存在も知っていたし、秋山徳蔵という料理番がいたことも知っていましたが、まったく調べずにそのまま眠らせてありました。
ところが先日たまたま見たYoutubeで、ずっと眠らせてあった疑問を思い出すことになったのです。
天皇の料理番が書いた本
きっかけになったのは、あのフレンチの巨匠三国清三さんのYoutube。
動画の中ではさらっとしか紹介していませんが、ひょっとしたら数年来の疑問への回答が書かれているかもしれない。
そう思って、三国さんと同じ『秋山徳蔵選集 第一巻・第二巻』バージョンを買って読んでみました。
秋山徳蔵さんは気が短くて有名だったそうですが、文章も短文で歯切れがよくテンポの良い文体です。
きっとカラッとした性格の方だったのでしょう。
内容は、
・天皇陛下の食事のエピソード
・コックの社会的地位
・日本の美味
・耳で食べる
・腹で切る
・秘食、ゲテモノ
・器、包丁
・料理のコツ五則
・味が出る塩
などなど盛りだくさん。
面白そうですよね。長くなりますが、秋山さんの世界観が伝わると思いますので第一巻から少し抜粋してみます。
天皇陛下はどんなお食事を召し上がっておられるのかーーと、会う人ごとに私に尋ねる。私は語りたくない。語ってはならぬことだーーと思う。いや、そう思っていた。
しかし、誰しもそれを知りたがる。相当な知識人も、普通の家庭の主婦でも、そうである。新聞や雑誌からも聞きにくる。
ということは、国民の大部分にとって知りたいことだということになる。単に興味ばかりではないものが感じとられる。と、なると、少し考え直さなければならない。
私は、陛下ほど民主的な方はないと信じている。四十年間お傍に仕えた私がいうのだから、誰が何といおうと、真実である。そのへんにいるつまらぬ役人どもや、政治家たちの方が、ずっと非民主的である。
こういう真実は、誰も知らない。そうして、「金の箸」や「お米は一粒ずつ選ったものだ」というような伝説が生まれてくるのである。だから、真実を語ることは、必要だともいえるのである。
私にこう聞いた人がある。
「秋山さん、あなたは何十年の間、天皇のお食事をつくっておられるんだから、心のやすまることはないでしょうね。よるなんかよく眠れますか」
なるほど、責任は重大である。陛下の御健康の、御生命の、いちばんもとになる食事のことを司っているのだから、そう言われれば空恐ろしいことである。
ところが、戦々恐々どころか、私は平気である。いつも気楽なものだ。それで、その通りを答えると、妙な顔をして、「へえーそんなもんですかねえ。私なんぞ秋山さんの立場だったら、神経衰弱になります。
「神経衰弱になったら、どうなるというんです。大切な務ができないじゃないですか。私が四十何年間、病気らしい病気をしたことのないのは、気楽にしているからですよ」
「そりゃ、そうですけど、よく気楽にしておられますね。それが不思議です」
そう言われてみると、不思議かも知れない。では、どうして自分はこんなにノンキなのだろうと考えてみる。と、やはり真心ということに落ちついてくる。
料理というものは、機械・器具を作るように、寸法を計って、切って、くっつけるといったものではない。
同じ鶏舎で同時に生まれて、同じ餌を食って育った鶏でも、違いがある。牛、豚でもそうだし、酒や野菜でもそうである。
その材料の個性によって、火加減も、調味料の加減も違ってくる。
その時の、その材料と勝負するのだ。
どうですかね?
私は仕事相手が料理人さんなので、料理人さんの本も多く読むようにしていますがかなり面白い部類に入ります。
天皇と備長炭
ところでもう一つの疑問。
そもそも納品した備長炭はいったい何に使われているのか?
海苔の乾燥?
だとしてもこんなに量を使わないだろう
うなぎのかば焼き?
そんなにしょっちゅう焼くわけではないだろう
焼肉?
天皇や皇室の方が焼肉を食べている姿が想像できない
焼鳥?
これまた天皇が串をほおばっている姿が想像できない
焼魚?
これは一番ありえそうだ、日常的に魚なら焼いているだろう
和菓子?
和菓子用の豆類を炊く時に使っているのか?ありえる!
ということで、宮内庁の木炭倉庫の管理をする方に「この備長炭や木炭はいったいなにに使われているのか?」聞いてみたことがあります。
担当の方もはっきりはわからないようですが、「主に春秋の園遊会で使用されるようですが、日常でも少し使われるようです」
「近年は海外の御来賓はなくなり開催されていませんが・・・」
言葉は正確ではありませんが、そのような趣旨のお答えをいただきました。
考えてみれば、備長炭はきっと江戸時代から将軍家や今でいう皇室に代々納められてきたのでしょう。
製炭は世界に誇る日本の伝統文化ですから、宮内庁にもずっと使い続けていただきたいですよね。
和食係を務めた谷部金次郎さんの本も読んでみようかな、と考えながら今回は以上にします。
また来週、よろしくお願いします!
今回の参考文献
秋山徳蔵さんの4部作は、文庫版も出ています。↓
Writer:
ホンダタロウ/炭火研究家 @HIROBIN
ふだんは備長木炭の生産→流通→消費のうち、
「流通」を担っています。
世界の伝統文化、アート、JAZZが好きです。
Instagram:@hirobin___taro.honda___
twitter:@sumibinogakkou
![](https://assets.st-note.com/img/1661494234987-iGU5l2IrUz.png?width=800)
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?