アソボロジーのPBLとGBL

「生きる力」と新しい学びのかたち

 最近の小学校の先生は大変です。国語や社会、算数や理科に加えて、英語やダンスにプログラミング。教えることがどんどん増えています。最近では「生きる力」を学校で教えなさい、と言われるようになりました。
 「生きる力」ってなんでしょう。文部科学省の学習指導要領にはこんな風に表現されています。

○学んだことを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力」「人間性」
○実際の社会や生活で生きて働く「知識及び技能」
○未知の状況にも対応できる「思考力、判断力、表現力など」
 
 知識や技能はなんとなくわかりますが、人間性や、判断力はどうやって育てるのでしょうか。何が実際の社会や生活に関わるのか、未知の状況って未知だから想像もできません。
 これらの力に答えはありません。人はそれぞれみんな能力も個性も「しこう」(嗜好/志向/指向)も表現の仕方も全部違いますし、常に変化していくからです。悩みや課題も様々あり、解決方法もたくさんありますし、解決しない課題もたくさんあります。

 近年では「アクティブラーニング」という、生徒が能動的に学びに向かう仕組み、教育手法が定着してきています。代表的なものに「PBL」(プロジェクト・ベースド・ラーニング)というものがあります。生徒が自分で課題を発見し、自律的な学習をするようにするプログラム形式の学びの手法です。色々な考え方や価値観があることを知り、協力して、自分やみんなの課題に取り組むという共通項的な力の育成の場として期待されています。

 PBLは大学や高校だけでなく、中学校や小学校でも取り入れはじめられています。しかし、PBLはこれまでのSBL(サブジェクト・ベースド・ラーニング)-科目のテキストに沿って基礎的なことから順に教える教育法-と進め方や考え方が大きく異なるため、これまでのやり方ではなかなかうまく進みません。
 ただ、課題を設定して、人を集めてもプロジェクトは進みません。そこに「学びに向かう力」や「判断力」、「思考力」が必要になるからです。まさに「生きる力」です。

 アソボロジーでは、「生きる力」につながる、基礎となる力として「好奇心」や「遊び心」を重視し、これらを養う手法、これらをいかした教育や研修の手法として、GBL(ゲーム・ベースド・ラーニング)を提唱します。これまでのSBL(サブジェクト・ベースド・ラーニング)の学び(知識や技能)とPBLの学び(知識や技能を活用した主体的な課題解決)の両方を大事にしながら、そこに向かう好奇心やコミュニケーションの力を養うものと位置付けています。アソボロジーが提供するプログラムはPBLとGBLを組み合わせるプログラムが基本です。

 GBLを組み入れたプログラムは、進行するファシリテーター(ゲームマスター)の役割もとても重要になりますので、アソボロジーでは、GBLのプログラムの提供だけでなく、GBLファシリテーターの育成もします。

 アソボロジーに興味を持ってもらった方、この文章を読んでいただいている方で、「生きる力」って学校だけで教わるものなの?と疑問を持った皆さんに、学校以外の場、生活の場、家庭内、地域で実践するファシリテーターになっていただきたい、と思っています。
 学びの機会はいつでも、全ての場に存在していますし、こどもたちの成長は社会全員でかかわるものであってほしいと願っています。是非、こどもたち、そして大人たちが学び合い、遊び合える社会のファシリテーターになってください。

GBL(ゲーム・ベースド・ラーニング)について

 GBLは、21世紀以降、アメリカで生まれた考え方で、教育の分野にゲームの要素を取り入れようとする動きです。教育(Education)とエンターテイメント(Entertainment)を合成したEdutertainmentという言葉も生まれました。
 世界的にも、企業の人材育成や社会教育分野でゲームの力は注目されており、“シリアスゲーム”という、社会問題の解決に生かせる学びにゲームの要素を取り込んだものが多く存在します。例えば、研修用の合意形成を学ぶ“NASAゲーム”やSDGsのテーマやその必要性を体感的に学ぶ“SDGsゲーム”等があります。

 なぜ教育の分野に、教育とはベクトルが違いそうなゲームの要素が取り入れられのでしょうか。

 ゲームを使う理由は、何よりまずアトラクティブ(人を引き付ける力が強い)であるということです。教育や研修は、受講者の学びたいという気持ちが高いか、低いかでその効果が大きく変わります。そして、人は往々にして新しく何かを学ばなければいけないという状況に不安や面倒くささを感じがちです。
 ゲームという入口はそんな不安や心理的なハードルを取り払う効果があります。人の本能(競争心や好奇心)を刺激するゲームという仕掛けは、気が付くと夢中になって参加している状況を作り出してくれます。

 次に、ゲームのルール、ゴールの設定・デザインによる、行動、思考の誘導の効果です。誘導と言っても参加者の行動や考えを意図しない方向に無理やり捻じ曲げるのではなく、あくまでも参加者が楽しみながらゲーム内での勝利やゴール達成を目指すことで、結果として、ゲームデザイナーが提供したい学びや知識、考え方が身につくということです。
 協力しましょう、人の意見を聴きましょうと伝えても、すぐにその通り行動はできなくとも、協力し、人の意見を聴かないと勝てないゲームに取り組むと、結果として協力し、コミュニケーションを図るようになります。

 3点目の効果は、体感的、経験的な学びの定着性の高さです。成功体験にしろ、失敗体験にしろ、体験して学んだことは、単に知識として習ったことやマニュアルを読んで身につけたことより理解が深まりやすくなります。ゲームという仮想空間内であっても、そこで体験したことは、深い理解と再現性の高い学びにつながります。
 実社会で同じような局面に差し掛かった時に、ゲーム内での行動や考え方が指標になることが期待されます。

大切なファシリテーターの役割

 GBLを取り入れる際にゲームそのものよりも大事なのは、その進行を助け、学びのサポートをする「ファシリテーター」の存在です。前項で紹介したシリアスゲームの業界では、ゲーム単体では販売せず、ファシリテーションをセットにした体験会や講座での提供や、ファシリテーターの育成そのものをビジネスモデルとしているものも多くあります。
 ゲーム自体はそのゲーム性で楽しむことは可能ですが、よりその効果を高めるためには、気持ちを引き出し、より深い理解や、気づきを誘発させるファシリテーターの役割が大きな意味を持ちます。

 「ファシリテーター」とはどのような役割でしょうか。” Facilitate” とは「促進する」という意味で、ファシリテーターを直訳すると「促進者」となります。
 一般的には、何か目的をもった人の集まり、会議や話し合いにおいて、客観的な(一歩下がった)立場から、その進行を助け、参加やの自発的な目的達成への前進を手伝う人のことを指します。20世紀中ごろから使われている意外と古い用語です。
 大事なことは、ファシリテーターは主役でなく脇役、主体者ではなく補助者であるということです。

 GBLにおけるファシリテーターの役割も概ねこの考え方に則っています。ゲームの主体者は参加者(プレイヤー)であり、GBLファシリテーターは、ゲームの円滑な進行とプレイヤーの学びを一歩下がった立場で促進することが求められます。
 一つ、普通のファシリテーターとの違いとしては、GBLファシリテーターはゲームマスター(親)を兼ねる点があります。ゲームの説明や、進行補助(カードを配る、点数をつける等)をこなしながら、ファシリテーターとしてふるまう必要があります。

 慣れればそれほど難しいことではありませんが、ゲームのルールや進行、ゲームが意図する学びの要素をしっかり理解することが必須ですので、事前の準備が重要です。
  アソボロジーではゲームやプログラムの開発の他、これらを進行するファシリテーターの育成も実施します。

 とはいえ、そんな難しいことではありません。まずは、こども(ゲームプレイヤー、プログラム参加者)と一緒に楽しむところからはじまります。こどもや参加者を教え導こうとしたり、諭そうとしたりしないようにしましょう。

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