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【絵本レビュー】 『おだんごぱん』

作者:ロシアの昔話
絵:わきたかず
訳:せたていじ
出版社:福音館書店
発行日:1966年5月

『おだんごぱん』のあらすじ:


おばあさんは粉箱をごしごしひっかいて集めた粉で、おだんごぱんを焼きました。窓のところで冷やされたおだんごぱんは、ころんと転がると、いすからゆかへ、ゆかから戸口を出て、おもての通りへ逃げ出しました。途中で出会ったウサギからも、オオカミからも、クマからも上手に逃げたのに、口のうまいキツネに、つい気を許して……。

『おだんごぱん』を読んだ感想:

とぼけた感じの絵に和んでいたら、「あっ」という結末に現実の厳しさを改めて学ばされました。

「知らない人がおかしかってくれるって言っても、ついて行っちゃダメだよ」と、子供の頃に親から言われた人は多いかもしれません。私は小学校から一人で電車通学だったので、父から毎朝呪文のように言われました。

私の父はかなり疑い深い性格だったので、外面はとても良かったのですが、あまり人を信用していませんでした。「人に貸しても、借りは作るな」が口癖で、ある日私が友達に鉛筆だったか匂い付き消しゴムだかをもらってきたら、「明日返せ」と叱られました。父の考えではたった一本の鉛筆は、いずれは10倍にも100倍にもなって返さなくてはならなくなる、というのです。小学生の私には理解できず、せっかくもらったものを返さなければならない気まずさでいっぱいでした。翌日友達に「やっぱりもらえない」と言って返した時の、彼女の困惑したような、侮辱されたような顔は今でも忘れません。私は一体どんな顔をしていたんでしょう。喜んでいたのは父一人で、「よくやった。これでもう借りはないぞ」と言われても、私はあまりさっぱりした気持ちにはなれませんでした。

この絵本を読んでいて、キツネが優しくおだてるような言葉をパンに投げかけた時瞬間的に「裏がある」と思ってしまったのは、こんな父の影響でしょうか。でも、世の中の人全員が裏があって優しいことを言っているのではないし、かといって全員が安全でもないですよね。はてさて、私はこれをどうやってうちの4歳児に伝えたらいいのでしょう。

『おだんごぱん』の翻訳者紹介:

せたていじ(瀬田貞二)
1916年、東京・本郷に生まれる。東京帝国大学で国文学を専攻。戦後、「児童百科辞典」(平凡社)の企画編集者をふりだしに、児童文学の評論、創作、翻訳などにいくつもの大きな仕事をのこした。絵本の代表作に『きょうはなんのひ?』(福音館書店)があげられる。ライフワークのひとつに「落穂ひろい 日本の子どもの文化をめぐる人びと」(福音館書店)がある。1979年逝去。


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