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【絵本レビュー】 『ありえない!』

作者/絵:エリック・カール
訳:アーサー・ビナード
出版社:偕成社
発行日:2021年3月

『ありえない!』のあらすじ:

見開きごとに、ちょっと奇妙な組み合わせや、立場が逆転したものが登場。
「ありえない!」と思うことも、見方を変えてみると、もしかするとありえなくもないかも……?


『ありえない!』を読んだ感想:

固定観念を取っ払うのにぴったりの絵本だと思います。

「どうせ私なんて」「ありえない」「ムリムリ」
謙虚と取られることもあるでしょうが、これらは全て心理学用語でいうリミティング・ビリーフです。

リミッティング・ビリーフとは、物事の捉え方をネガティブに傾ける思い込み・固定概念を指します。思考や感情に否定的に作用することで、心にブレーキをかけてしまいます。
「リミッティング・ビリーフとは」/https://biz-shinri.com/dictionary/limiting-belief

身近なところでいうと、「私は言語に向いてないから」と外国語を習うのをためらっていたり、「私なんてムリだよ」と合コン(今でもあるんですか?)の誘いをいつも断ってしまったり。

思考のパターンとしては、「〜だから、〇〇してはいけない」です。

ある冬のこと。寒い日でしたが私はアイスが食べたくなり、一緒にいたスペイン人の友達を誘いました。彼女は、
「何言ってるの。冬にアイスなんか食べちゃいけないんだよ。」
とても真面目に言うので、私はびっくりしてしまいました。
「いつから食べていいの?」と聞くと、
「五月くらいからかな。」
やっぱり彼女は真剣でした。
「誰が決めたの?」
「私たちは小さな頃からそう言われてきたよ。」

その日はその話にすっかり気を取られてアイスを食べなかったのですが、別の日に私はアイスを買って帰りました。その時ハウスメイトであった彼女と夜映画を観る約束をしていたので、その時に一緒に食べようと思ったのです。もちろん映画の前に部屋を暖かくしておきました。毛布も部屋から持ってきて準備万端。借りてきた映画もセットしたので、台所へ飛び込んで、ボウルにアイスを入れてきました。

友達はびっくりした顔をしていましたが、
「部屋もあったかいし、今日はこのまま寝るだけでしょ。」
と言うと、ちょっと納得してボウルを受け取ってくれました。映画を見ながら横目でチラリ。ちゃんと食べています。
「美味しい」と小さな声で言ってくれました。

彼女が断ってくる可能性も考えていました。そうしたら一人で二人分を食べるつもりでした(もちろん)。ただ私は、彼女が子供の時に親から言われた観念に無意識的にチャレンジ精神が湧いたのです。当時リミティング・ビリーフと言う言葉は知らなかったので、直感で行動していました。それからも何度か彼女と冬にアイスを食べました。外では絶対食べなかったですけどね。

自分で自分を苦しめるなんてありえないという気もしますが、私たちは多かれ少なかれ自分を制限しています。でもその制限があまりにも強いと、いろいろな可能性を潰してしまうこともありますね。

この固定観念が深刻になってしまうと、「ありのままの自分でいてはいけない」「人を信じてはいけない」「成長してはいけない」「楽しんではいけない」「成功を感じてはいけない」などと考え、自己否定をしてしまったり、いつも気疲れして人に会いたくなくなったりしてしまうこともあるそうです。

そこまで深刻でなくても、固定観念から解放されることで自分に自信がついて、自分の中に可能性を見出せるようになったら素敵ですよね。どうせできないからやったら少しは向上するかもに考え方がシフトできるだけでも、毎日にもう少し希望が見えてくるような気がします。



『ありえない!』の作者紹介:

エリック・カール(Eric Carle)
1929年アメリカに生まれ、西ドイツで育つ。シュツットガルト造形美術大学で学んだ後、1952年にアメリカへ戻る。グラフィック・デザイナー、アート・ディレクターとして活躍後、絵本作家に。1968年に絵本「1,2,3どうぶつえんへ」(偕成社刊)を発表、ボローニャグラフィック大賞を受賞し、以来絵本作家として活躍。世界的な人気絵本「はらぺこあおむし」「たんじょうびのふしぎなてがみ」(以上偕成社刊)などの傑作を生む。


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