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【絵本レビュー】 『ごきげんなすてご』

作者/絵:いとうひろし
出版社:徳間書店
発行日:1995年1月

『ごきげんなすてご』のあらすじ:

三か月まえ、弟がやってきた。弟の顔はおさるだった。でもお母さんは弟ばかりかわいがる。それならいいよ、あたしはすてごになって、すてきなおうちにもらわれるから…。家出した女の子が、「すてご仲間」になった犬、ねこ、かめといっしょに大活躍!


『ごきげんなすてご』を読んだ感想:

あんまり言うことを聞かないと、「あんたは川から拾って来たのよ」と親に言われると言うのは、はてアニメで見たのか、友達が話していたのか。幸いにも私は言われたことがないのですが、母から一度、

「お前は川に捨てられてたのを拾って来たって言っておけばよかったよ」

とは言われたことがあります。とても面倒くさがり屋の母なので、拾って来たら警察との事情徴収など色々と書類事項があるでしょうからまず無理でしょうと言うことはお互いわかっていて、全く信憑性が感じられませんでしたけれど。

小学生の時、スイミングプールに迷い込んでいた猫を連れて帰って飼い始めました。迷い猫だから「プー」。プー太郎のプーです。職も家もなく道をプラプラしているからプー太郎と父が説明してくれましたが、その十年後就職難で大学を卒業しても職につけずにいた私自身が「プー太郎」と呼ばれるとは、もちろん想像していませんでした。

プーは毛並みも良く、行儀もとてもいい猫でした。逃げてしまうのでは、と言う心配とは裏腹に家が大好きで、いつも私たちと一緒にいたがりました。毛だらけになるからという理由で、残念ながら彼が入れたのは玄関からお風呂場まで続く廊下と、そこに並ぶトイレと台所のみでした。一緒にテレビを見たり寝たりしたい、という私の夢は結局叶いませんでした。でもリビングのドアを開けると、たいてい玄関マットの上に団子状になって待っていました。

このプーはなかなか社交的で、しょっちゅう友達を食事に招待していました。ある時買い物から帰って来て台所に入ると、餌置き場の横にプーが行儀よく座っています。「私たちが帰って来たのを聞いてご飯を催促したいのかな」と思いきや、餌の入ったボールに覆いかぶさっているのは別な猫。「あっ」と声をあげると、その猫は振り向いて「しまった!」という顔をしてすっ飛んで行ってしまいました。プーはと言えば、得意そうに私たちを見ています。そう言えば、友達が食べている間彼は全く餌に手をつけていなかった模様。むしろ友達が食べているのを満足そうに見ている、といった様子でした。

この社交的な性格が命取りになるとは想像しませんでした。プーは野良友達と遊ぶために、うちの前のバス通りをよく渡っていたようです。当時私たちは交差点から二軒目に住んでいて、どちらの道もバスが通っていました。大きめのバスが通る道は交通量もそれなりにあったのですが、ちょうど反対側は空き地で、どうやらそこへ遊びに行っていたようです。普段は夕方になって私が縁側から口笛を吹くと二、三分で現れましたが、その日は帰って来ませんでした。

父には「どこかの家に潜り込んでるんだよ」と言われましたが私は信じられず、その次の日も、また次の日も口笛を吹きました。プーがいなくなった翌日から一週間ほど雨が続き、私はプーが寒い思いをしていないといいなと思っていました。プーは新しい家族を見つけたんでしょうか。それともまた迷い猫となってしまったんでしょうか。

いなくなって一週間ほどした日学校から帰ると、父が玄関から出て来て私を迎えました。

「プーを見つけたよ」

いいニュースのはずなのに父の声は沈んでいました。急いで家に入ろうとする私を父は引き止めて、代わりに庭の隅にある桜の木の方へ連れて行かれました。意味もわからずぽかんとしている私に父は説明してくれました。

プーが道の反対側で死んでいたこと。おそらく帰って来ようとして車にはねられたんだろうとのこと。雨が幸いして、道路の清掃業者が来なかったので、プーの身体はそこに残されていたんだろう。父がそれを持って帰って来て靴箱に入れ、今は桜の木の下に埋まっていること。

父に言われて、私は掘り返されて黒々している場所に、さらにもう少し土をかけました。私が口笛を吹いたから、プーは急いで道を渡ろうとしてはねられたんだろうか。全ては想像でしかないのだけれど、想像だからなお自分が悪いように考えてしまいました。ただ一つわかったのは、プーは私たちが好きだったということ。迷い猫として我が家に来てから一年ちょっとという短い時間だけれど、プーは私たちみんなを幸せにしてくれました。プーは理想通りのうちにもらわれたのでしょうか。そうだと信じたいです。


『ごきげんなすてご』の作者紹介:


いとうひろし(伊東寛)
1957年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。独特のユーモラスであたたかみのあ る作風の絵本・挿絵の仕事で活躍中。おもな作品に 「おさるのまいにち」シリーズ(講談社刊、路傍の石幼少年文学賞受賞)、「ルラルさんのにわ」シリーズ(絵本にっぽん賞受賞)「くもくん」(以上ポプラ社刊)、「あぶくアキラのあわの旅」(理論社刊)、「ごきげんなすてご」シリーズ、「ふたりでまいご」「ねこと友だち」「マンホールからこんにちは」「アイスクリームでかんぱい」「あかちゃんのおさんぽ①②」「ねこのなまえ」(以上徳間書店刊)など多数。


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