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【絵本レビュー】 『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』

作者/絵:バージニア・リー・バートン
訳:むらおかはなこ
出版社:福音館書店
発行日:1961年8月

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』のあらすじ:

ちいさな機関車のちゅうちゅうは、いつも客車や貨車を引いて小さな駅と大きな駅の間を走ります。ある日ちゅうちゅうは、みんなの注目を集めたくて、ひとりだけで走り出してしまいます。威勢よく走るちゅうちゅうに、まわりのみんなは驚き、怒り出します。やがて日が暮れて、石炭も水も少なくなり、古い線路に迷い込んでとうとう止まってしまったちゅうちゅう。そこに迎えに来てくれたのは、最新式の汽車にのった機関士でした。

『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』を読んだ感想:

わたしは、もう、あの おもい きゃくしゃ なんか ひくのは ごめんだ。わたしひとりなら、もっと もっと はやく はしれるんだ。 そうしたら、きっと みんなが いうでしょう。「なんて きのきいた かわいい きかんしゃだろう! なんて はやい しゃれた きかんしゃだろう! なんて きれいな すてきな きかんしゃだ! あれ ごらん。ひとつだけで はしっているよ」って

動機が不純じゃないですか?と一瞬思ったことは否めません。

でも共感できるんです。買い物でもなんでもいつも付属品を引っ張っているんです。ひとりだったらもっともっと早く済ませるのに。ひとりだったらお茶をゆっくり楽しめるのに。子供を連れていなかったら、「わたし」という個人として見てもらえるんじゃないかと思うんです。

時々一人でいることもあります。そんな時は周囲にアンテナを張っていなくていいので、ぼんやりと自分の考えの中に浸っていることが多いです。面白いなと思ったのは、子連れでいない時に他のお母さんに会うと必ず、「あれっ、今日は〇〇くんは?」と聞かれるんです。息子がいなくても私はいつもの私なのに、とちょっと不思議な気がします。母親でいる私が私としての完結型ではなくて、私自身で完成形なんですけれど。。。

また、子供を連れていなくて「ずるい」と言われたこともあります。それは、母親は一人の時間を持ってはいけないということでしょうか。うちの旦那はフルタイムで仕事をしているので、フリーランスの私が必然的に息子の世話をする時間が多いですが、それでも夕方とか週末の数時間とかは旦那に男子時間を作ってもらっています。彼だって親なんだから子供と過ごす時間を取ったっていいですよね。しかもその時間を家庭内で調整しているのだから、「ずるい」というわけではない気もします。

旦那さんが育児に協力的ではないというケースはたくさん聞きますが、「旦那さんにできるか聞いてみましたか」と聞くと、「聞いたことがない」ということが結構あることにも驚きました。言えないのは私だけだと思っていたからです。

少し前まで私は「旦那だって親なんだし、子供の世話をするのは当たり前でしょう」と思っていました。「わかっているはず」なのだから言わなくてもいい、と思っていたのです。それでしてくれないのでイライラが溜まるという悪循環が起きていました。

そしてある日気がついたのです。「この人、本当に気づいてない」
ちょっとしたショックでした。私がひとりでしていて、旦那は心の底からそれでオッケーだと思っていたのです。私が頼んでいないから、手伝いは必要ないと思っていたことに、私は本当に驚きました。そこで「バカバカしい」と思いながらもお願いしてみると、あっさりしてくれるではないですか。あまりのあっけなさに、頭がぱっかり開いて脳みそが飛び出すかと思うほどでした。

ちょっと信じ難かったので、他のことも頼んでみました。

「洗濯物干しといて」
「息子くんのお迎え行ける?」

「わかった」
「今日はできないけど、明日はするよ」

これもあっさりクリア。そっか、言わなきゃわからないんだ。他人が考えていることがわからないのだから、私が考えていることだって誰も読み取れない。わかっているのに、なぜか「これって当然でしょ」と思ってコミュニケーションが取れていないことが多いように思います。伝えていないのに一人でイライラして怒っているなんて、理不尽ですよね。自分で自分をイライラさせてるということに気づいたら、ちょっと笑えてしまいました。

ちゅうちゅうもちょっとした息抜きができてよかったですね。客車から離れての一人時間、誰もが必要としていることです。あなたはどうやって確保しますか。ちゅうちゅうみたいに客車を振り切って逃げる派ですか。それともちゃんとコミュニケーションをとって多腕振って楽しむ派ですか。


『いたずらきかんしゃちゅうちゅう』の作者紹介:


バージニア・リー・バートン(Virginia Lee Burton)
1909年8月30日、アメリカのマサチューセッツ州ニュートンセンター生まれ。父はマサチューセッツ工業大学の学監、母はイギリス生まれの詩人で音楽家。バートンはカリフォルニアの美術大学で絵の勉強をするかたわらバレーも学び、1931年にボストンで絵の教えをうけた彫刻家ジョージ・ディミトリオスと結婚。以後、海べの小さな村フォリー・コーヴに住み、画家として、デザイナーとして、また絵本作家として活躍した。1968年没。  最初の絵本『いたずらきかんしゃ ちゅうちゅう』は、長男アーリスのため、第二作『マイク・マリガンとスチーム・ショベル』は次男マイケルのために描かれたもの。その他主な作品に『ちいさいおうち』『せいめいのれきし』『名馬キャリコ』(以上、岩波書店)、『はたらきもののじょせつしゃ けいてぃー』(福音館書店)ほか多数。1968年没。

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