【絵本レビュー】 『いいからいいから』
作者/絵:長谷川義史
出版社:絵本館
発行日:2007年9月
『いいからいいから』のあらすじ:
いつも「いいから、いいから。」となんでも受け入れるおじいちゃん。
おばけが出ても、まったく動じない。マッサージしてあげたり、一緒に温泉に入ったり、話をたくさん聞いてあげたり。
『いいからいいから』を読んだ感想:
おじいちゃんやおばあちゃんになると細かいことを気にしなくなるのでしょうか。あんなにちまちましたことを言っていた母が孫に対しては何を言われてもケラケラ笑って気にしないと言う話はよく聞きます。
近所のおばさんが、「孫に甘すぎると娘に怒られます」と言っていました。
「可愛いんですね」と言ったら、
「私のじゃないからどうでもいいんです。」と言っていたのには笑えましたけれど。
失敗した時、悲しい時に怒られたり励まされたりするけれども、結局私たちが求めているのは「いいからいいから」という言葉なのではないでしょうか。うらめしや〜と出てくるお化けだって、誰かに理不尽さを聞いてもらいたいだけなのかもしれません。
私たちは良かれと思ってアドバイスをするけれども、その解決法を求めているわけではなく、同感して欲しいのではないでしょうか。今私はこんな気持ちなんだということをわかって欲しいのです。もちろん次のステップは解決かもしれないけれど、悲しい時、怒っている時、落ち込んでいる時にまず聞きたいのは「いいからいいから」だと思います。
失敗した時も同じですね。高校生くらいの頃、いつものように父と言い争いをし、いつものように友達との約束をキャンセルさせられたか、お小遣いを減らされる宣言をされたかしたのだと思います。私は怒りの火玉となっていました。お腹の中で黒々しくとぐろを巻くそれを吐き出したくて、二階に上がる前に壁を蹴りました。
パスッ
そんな音がして、私のスリッパを履いた足の半分近くが壁の中に入っていました。
まずい。。。
私の顔は怒り沸騰の赤からちびまる子ちゃん風縦線入りの青色に変わったと思います。
足をそっと抜くと、スリッパは壁に入ったまま。マジでまずい。。。
スリッパも抜きました。壁は予想に反して薄く、まるでベニア板みたいだったことに驚きました。中に入り込んだ壁を手で外に出して、私はこそこそ部屋に上がりました。さっきまでの怒りより壁を壊したドキドキの方が大きくなって、私はドアを閉めて部屋で本を読み始めました。しばらくすると母が私の名前を怒鳴る声が聞こえました。
これで一巻の終わりと腹をくくりドアを開けると、母が
「これ、お前がしたの?」
「そう。」
「パパと言い争いしたから?」
「そう。壁がこんなに薄いとは思わなかった。」
ぷうううううう。
大爆笑の母。涙を流して笑っています。怒られるものとばかり思っていた私は拍子抜け。でもだんだん母の笑いがウツってきて、私も笑い始めました。
「家ってチャチだねえ。」と言いながら母は穴を調べると、
「確かまだ補修用パテあったな。」そう言って洗濯部屋に行き、パテを持って帰ってきました。突っ立ている私を見ると、
「ここにいるとパパに見つかってまたなんか言われるから、部屋行ってな。」
そう私を追い払いました。
「ありがとう」
私はそれからしばらく部屋を出ませんでした。
この時の穴は、今も丸い跡が残っています。家にあったもので直したので、やっぱり平らにはならなかったのです。
でもこの時もし母が、「なんでこんなことしたの!」と怒っていたら、私の気持ちは随分違ったでしょう。その前に起きた私の怒りも落ち着かなかったでしょうし、穴を開けたことで怒られるのも理不尽にさえ感じたかもしれません。母はある意味「いいからいいから」と私の全てを包んでくれたのかもしれません。
「いいからいいから」のパワー、なかなか侮れませんね。
『いいからいいから』の作者紹介:
長谷川義史
1961年、大阪府生まれ。グラフィックデザイナー、イラストレーターを経て、『おじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃんのおじいちゃん』(BL出版) で絵本デビュー。『うえへまいりまぁす』(PHP研究所)、『やまださんちのてんきよほう』 (絵本館)、『きみたちきょうからともだちだ』(朔北社)、『おへそのあな』(BL出版)、『スモウマン』『いろはのかるた奉行』(講談社)など、ユーモアあふれる作品を発表。2003年、『おたまさんのおかいさん』(解放出版社)で講談社出版文化賞絵本賞、2005年に『いろはにほへと』(BL出版)で日本絵本賞を受賞。2008年に『ぼくがラーメンたべてるとき』(教育画劇)で日本絵本賞、小学館児童出版文化賞を受賞。
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