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【絵本レビュー】 『おとなってじぶんでばっかりハンドルをにぎってる』

作者/絵:ウィリアム・スタイグ
訳:木坂涼
出版社:セーラー出版
発行日:1999年3月

『おとなってじぶんでばっかりハンドルをにぎってる』のあらすじ:

おとなって子どもを幸せにさせたがるんだ。おとなっていつでも時間を気にしてる。おとなって、子どもが礼儀正しいとうれしがる。そのくせおとなって、不作法…。子どもの視点から大人の不可思議な様子を描いた絵本。

『おとなってじぶんでばっかりハンドルをにぎってる』を読んだ感想:

読みながら「ああ、やってるやってる」と思ってしまいました。大人がしていることって、子供にとってはだいぶ理不尽だろうなと思います。

私の父はよく嘘をつきました。私が悪いことをすると、その罰として楽しみにしていたことがなくなります。テレビは見ていなかったので、大抵は友達と遊ぶ約束でした。しかも私自身が電話をして断らなくてはならないのです。私の頭の中では、「お父さんが明日やっぱり遊んじゃダメだって。」なのですが、父にきっちりセリフを教えられます。

「明日は御墓参りに行くから」
「明日はおじさんの家に行かなきゃならないから」

私は不本意ながらその言葉を繰り返します。父はそばで聞いているから他のことは言えませんが、言葉を口にする私には感情がこもっていません。電話を切ると、私は大抵泣きました。遊べない悔しさと悲しさ、そして思ってもいないことを言わされた理不尽さが私をなかせたのです。

「なんで嘘つくの?」と聞く私。
「嘘も方便って言うんだ」と言う父。

嘘に良いも悪いもあるか。嘘は嘘。私は小さな頃から父の嘘が嫌いでした。そんなある日の帰り道、わりと近所に住む友達が学校の後遊ぼうと言って来たのです。せっかくの誘いだったのに私はあまり乗り気ではありませんでした。そこで浮かんで来たアイデアは父の言う「良い嘘」をつくことでした。

「今日は無理。スイミングに行くから。」

思ったよりさらっと言えて、たいして追求されることもなく、その子とは家の最寄りの駅で別れました。私は家に帰り、道で遊んだり本を読んだりして午後を過ごしていました。すると目の前に父が仁王立ちになって立っていました。顔を上げると父の顔も仁王様みたいです。

「お前は〇〇ちゃんにスイミング行ってるって嘘ついたのか?」

一瞬なんのことかわかりませんでした。友達に言ったことをすっかり忘れていたのです。友達はちゃんと覚えていてお母さんに報告したんですね。その子のお母さんとうちの父は仲が良くて、お母さんは責めると言うよりも興味津々で、スイミングクラブの情報を得ようと電話をかけて来たようなのでした。

「なんで嘘なんかつくんだ。」父はカンカンです。
「だって嘘も方便だから。」と私。
「はあ?」父のこめかみはピクピク。

ご想像の通り、私はこっぴどく怒られ、いかに嘘が良くないかを説教されました。でもやはりご想像通り私には理不尽としか思えなかったのです。父がいつも私にしろと言っていることをしたのだから褒めてもらえるべきですよね。大人って勝手です。

さらに、私はその後すぐスイミングに入れられました。頭も洗えなかったほどの水嫌いが克服されたこともあったのですが、私の予想では、友達のお母さんから電話があったことで引っ込みがつかなくなり、実際に水泳教室を探して来たのだと思います。こうして私の水泳生活が始まったのでした。


『おとなってじぶんでばっかりハンドルをにぎってる』の作者紹介:


ウィリアム・スタイグ(William Steig)
1907年アメリカのニューヨーク市生まれ。ニューヨーク市立大学とニューヨーク・デザイン・アカデミーで学び、23歳のとき時事漫画家としてデビュー。28歳で子供向けの本に手を染めて以来、絵本作家・物語作家としても活躍。「ロバのシルベスターとまほうのこいし」(評論社)でコールデコット賞・ニューベリー賞、「アベルの島」(評論社)でニューベリー賞を受賞。



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