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【絵本レビュー】 『お月さまってどんなあじ?』

作者/絵:マイケル・グレイニエツ
訳:泉千穂子
出版社:セーラー出版
発行日:1995年5月

『もしもぼくのせいがのびたら』のあらすじ:

お月さまを一口かじってみたいという動物たちが次々に自分の背中に他の動物をのせていきます。そして、とうとう…。

『もしもぼくのせいがのびたら』を読んだ感想:

「名月を とってくれろと 泣く子かな」
一茶の句を連想させた絵本でした。くしゃっとした和紙のような感触の絵もとても個性的で素敵です。

満月をテーマにした絵本はたくさんありますが、「どんなあじ」というところに惹かれ購入しました。ちなみに私は、月はゴーフルみたいな食感とあじだと思います。皆さんはどんな味だと思いますか。

みんなで何かをするときの結束って硬いですよね。特に悪巧みだと尚更ですけれど。

ある日私は家の前で知らない子たちが集まって遊んでいるのを見つけました。一人か二人見かけた子はいましたが、こんなに集まっているのは初めて見ました。おそらくみんな同じ学校の子たちたのでしょう。私は引っ越してきて間もないこと、地元の学校に入っていなかったことが重なり、近所の子供達はほとんど知りませんでした。

普段は裏のアパートに住んでいた三歳下の男の子か路地の工場の姉妹と遊ぶのですが、その日はどちらも見かけず、私は一人家の前の駐車場でぼんやりしていました。通りの向こうの路地に六、七人の子供たちが集まって遊んでいるのが見えました。その子達はお団子みたいにくっついて、なにやら楽しそうに笑っています。私の足は自然とそちらに向かって行きました。今や駐車場と道の境まで来ています。

じっと見ていると、「入る?」とお団子から声がしました。私はさっと道を越えて路地に入り、一緒に遊び始めました。なにをして知るのかはさっぱりわかりませんでしたが、みんなの真似をしてたくさん笑いました。いっぱい押し合いっこして、走って、笑っていると、誰かが言いました。
「あ〜、喉乾いた」
その言葉に私の頭にある考えが閃きました。キラリン。

「うちにおいでよ。麦茶あげるよ。」
子供たちはお互いを見合ってから聞きました。「お母さんに聞いたの?」
その時父はいつも通り車でどこかに行っていて、私は家に一人でした。
「うん、良いって言ってたよ。」

そうして私を先頭に六、七人の子供たちがぞろぞろ私の家に入って行きました。台所にテーブルの上に大きな鍋に入って冷やされている麦茶がドカンと載っていました。その周りをぐるりと回る汗をかいて真っ赤な顔をした顔、顔、顔。私は戸棚からありったけのグラスを出して、一人一人に手渡しました。そしておたまを鍋の中に入れて宣言しました。
「テーブルの周りを順番に回って、お鍋の前に来たらひと掬いずつ取るの。入れたらテーブルを回っている間に飲んで、また戻って来たら入れるの、いい?」
どの子も神妙な顔でルールを聞いて、さあ始まりです。私たちはテーブルの周りをマーチしながら。。。大鍋の麦茶を飲みきってしまいました。もうお腹がガブガブで、どの子もこれ以上は飲めん、という顔をして空っぽになった鍋を眺めていました。

私たちはグラスをテーブルの上に置くと、また外へ出て行って遊びました。さっきより他の子達との気持ちが近づいたような気がしました。やがて夕方になり、一人、また一人とうちに帰って行き、路地の奥に住んでいる子供二人と私だけになりました。私たちはそのうちの一人が住むアパートまで行って、その子が家に帰っていくのを見送りました。そのあと、もう一人もその向かいの家に入って行ったので、私は路地を戻って家に帰りました。父の車も戻っていました。

「おい、麦茶どうしたんだ?」
帰るなり父に聞かれ、ハッとする私。ほんの一時間ほど前にみんなでうちに入って飲み干したことをすっかり忘れていたのです。テーブルに載った空の大鍋とそれを囲むように置かれた複数の空のグラスが、なんだか非現実的に見えました。
「みんなで飲んだの」
説明しましたが、父は信じられないようでした。私だって知らない子たちだし、あの子たちが誰だったのか私も知りません。知らない子供たちと私が友達になってうちへ招待したなんて、父は信じられなかったんでしょうね。
「よっぽど喉が渇いてたんだな。ハラ壊すぞ」
父はカラカラと笑ってまた大鍋を火にかけ始めました。麦茶の作り直しです。父は、私がいろんなグラスで麦茶を飲みきったと最後まで思っていたようです。

この日の後、その子達全員をまた道で見ることはありませんでした。夢だったんでしょうか。でもね、麦茶のマーチをしながら飲んだ麦茶より美味しい麦茶を、私は今まで飲んだことがありません。




『もしもぼくのせいがのびたら』の作者紹介:

マイケル・グレイニエツ(Michael Grejniec)
1955年ポーランド生まれ。「お月さまってどんなあじ?」(セーラー出版)で日本絵本賞翻訳絵本賞を受賞。「どのあしがさき?」(鈴木出版)、「いちばんたかいのだあれ?」(金の星社)、「どうしてかなしいの?/どこにいるの?」(ポプラ社)、「クレリア」(セーラー出版)などの作品がある。


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