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【絵本レビュー】 『こいしがどしーん』

作者:内田麟太郎
絵:長新太
出版社:童心社
発行日:2013年10月

『こいしがどしーん』のあらすじ:

「ピコ ピコ ピー」 スーパー・コンピューターが計算をしています。「15日目の10時2分。でかでか星が、地球にぶつかる」地球のみんなは、大慌て。おじさんもおばさんも、イヌもネコも、クジラもゴリラもあわてて逃げ回っています。そのとき、山の上の仙人が、小石をころりと転がすと……。ちっぽけな石ころと、でっかい隕石を巧みに対比させた、壮大な世界の広がるナンセンス絵本。強烈で迫力あるイラストが魅力です。

『こいしがどしーん』を読んだ感想:

非常に些細なことが様々な要因を引き起こし、段々と大きな現象へと変化すること

これをバタフライ効果と言うんだそうです。蝶の羽ばたきがはるか遠くの場所の天気を左右する可能性があるかもしれないと言う考えから来ているのですが、実証されているかというとそうではないみたいです。でも、こういうことってありますよね。

誰も気にしないでしょっていうような小さな嘘が広まってしまって、なんだか大事になってしまったとか。逆に身近な人にしてあげたちっちゃなことが口コミで広まっていて、気がついたらすごく大きなことになっていたとか。

私ももちろん両方を体験しています。何度かここでもお話していますが、ドイツのロックダウンを機に絵本を読み始めました。息子と二十四時間一緒の生活になりストレスが溜まって、息子の大好きな読み聞かせの時間も私には息子との時間の延長のように感じ、あまり楽しめませんでした。家にある日本ごんの本もそう多くないし、彼が持ってくる絵本はもうすでに二十回くらい読んだものなので、読んでいる方にもあまり感情がこもって来ません。これはいかんとは思わなかったのですが、観客がいればモチベーションが上がるのではないか、と考えたのです。

早速友人何人かに声をかけました。「オンラインで三十分くらいだけど私が読んでいる間、昼寝しててもいいよ」というようなことを言ったと思います。二十四時間子供とべったりになって、他のママたちも一人で静寂の時間を持てなくなっているだろうと思ったのです。ママたちからはすぐに参加したいという返事が来て、私は家にある絵本を読み始めました。とっても気に入ってもらえて、私はそれだけで満足でした。コロナが終わればみんなそれぞれの毎日に戻っていくだろうと、気楽に考えていました。

そのあと参加したママから友達にも声をかけたいとメッセージが来ました。三人に読むのも五人に読むのも同じことです。私は軽い気持ちでいたのだと思います。気がつくと十人ほどの子供達がスクリーン上にいました。中には私の知らない子たちもいます。輪はベルリンからドイツ南部、西部へと広がり、さらにはスペイン、ロンドンへも広がりました。気がつけば、アメリカからも時間が合うときに参加してくれている家族もいるようなのです。まさにバタフライ効果です。

そして最近あるママさんが教えてくれたのが、地元の日本人学校の先生が「絵本を一人で読んでいる人」がいると話していたということでした。私の息子は日本人学校へ行っていませんから、そこの先生方とも交流がありません。もし行っていたとしても、恥ずかしくてそんなことは言わなかったかもしれませんけどね。でもそれを聞いて、私がコロリと転がした小石があっちこっちとぶつかって遠くまで行ったんだなという感触があって、少し嬉しくなりました。

仙人が小石を転がしたことを信じるかって言われると、誰が転がしたのかは重要ではないように思います。でもその小さな変化や動きが何か大きな動きの原動力になった、ということが大切なんだと思います。

私は飽きずに私の読み聞かせに来てくれる子供達に感謝しています。君たちのおかげでロックダウン中もまっすぐ立っていられたんだよって、近い将来実際に会うことができるようになったら言ってあげたいなと思っています。

『こいしがどしーん』の作者紹介:


内田麟太郎
1941年福岡県大牟田市生まれ。個性的な文体で独自の世界を展開。『さかさまライオン』(童心社)で絵本にっぽん大賞、『うそつきのつき』(文渓堂)で小学館児童出版文化賞、『がたごと がたごと』(童心社)で日本絵本賞を受賞。絵本の他にも、読み物、詩集など作品多数。 他の主な作品に「おれたち、ともだち!」シリーズ(偕成社)、『かあさんのこころ』(佼成出版社)、『とってもいいこと』(クレヨンハウス)、『ぽんぽん』(鈴木出版)などがある。


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