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【絵本レビュー】 『ランスロットのはちみつケーキ』

作者/絵:たむらしげる
出版社:偕成社
発行日:2005年10月

『ランスロットのはちみつケーキ』のあらすじ:

ロボットのランスロットとパブロくんたちは、小さな火山をつかって、はちみつケーキを作ることにしました。おいしくできるかな?

『ランスロットのはちみつケーキ』を読んだ感想:

用事を頼まれてくれるロボットがあったらいいなあ、とアパート内をふらふら歩きながら呑気にウクレレを弾く旦那を横目で見ながら、昼食の準備をしつつ息子の遊び相手もこなしている爆発3秒前の私でした。

ベルリンの夏はwasp(ワスプ)と呼ばれる蜂が発生しますが、これがなかなか凶暴でよく人を刺すんです。甘いものが好きなようで、カフェやレストランのテラス席にある砂糖入れに集まってきて、すごい勢いで瓶の中にまで入っていきます。レストランによってはお皿にはちみつを入れてテラス席から少し離れたところに置き、蜂がそっちへ集中するようにしているところもあります。

ある夏のこと。朝起きて部屋でヨガをしていました。太陽礼拝のポーズをして腕を下げた途端、上腕の内側に鋭い痛みが走りました。「はうっ!」慌てて腕をあげると、蜂が頭を下に腕からぶら下がって羽をジタバタしています。私は虫が苦手、しかも痛い。焦ってはいたけれど手でつまむのは嫌だったので手の甲でさっと払うと、ブブブと不機嫌そうに窓の外へ飛んでいきました。「あれ、間違いなく蜂だったよね」と自分自身に問いかけると、急に胸がドキドキしてきました。そして私の頭にはみんなとした蜂アレルギーや蜂に刺されて起こるショック症状の話が頭をぐるぐる回っています。腕は熱を持ったようにジンジンし、真っ赤に丸く腫れ上がってきました。

運悪くその週ハウスメイトたちは旅行中で、私は家に一人っきりでした。「このままショック症状に落ち入ったらどうしよう」「まだ意識があるうちに誰かに連絡取らなきゃ」こんな夏に一人で一週間も倒れていたら、私は腐敗して大変なことになる。。。こんな時ばかり想像力がたくましくなり、私の頭の中にはすでに白骨化した自分自身の姿さえ浮かんでいました。とりあえず友人一人にメッセージを送ります。「蜂に刺された!」しかし帰ってきた答えは、「え〜家の中で?迷い蜂?はははは」送る相手の選択を間違ったようです。暑い夏なのに私の背中には何か冷たいものが流れていました。

それにしても腕が痛い。腫れはすでにテニスボール半分くらいになっていました。火傷でもしたかのようにビリビリとしています。まずは冷やそう、とお風呂場に行って腕を蛇口の下に据え、水をガンガン流しました。なんだか痛みが薄らいだ気がします。ですが水を止めた途端またビリビリしてきました。このままじゃ死ぬ。私は携帯を開き「蜂刺され、家庭療法」を調べ始めました。まず最初は歯磨き粉。ペパーミントがいいんだそうです。早速コルゲートを塗りたくってみました。スースーしていい感じ。でもベタベタして服につくので、腕を常にボディービルダーみたいに上げていなくてはなりません。そういえばまだヨガをした時の服を着ています。着替えたかったので、一度歯磨き粉を洗い落としました。まだスースー感は残っていていいぞと思ったのもつかの間、急にかゆみが出てきました。痒い、しかし掻くと痛い。痛い、しかし痒い。なんという拷問。

私は着替えを済ませ、またもや携帯を開きます。重曹。あるある。私は台所に向かい、重曹と水を混ぜました。その間も痒みと痛みは同時に襲ってくるので、私は鶏みたいに腕をパカパカしてちょっと掻いている気持ちを味わいます。重曹ペースト完了。患部に塗ります。ポロポロしてうまく貼り付きません。私は床に寝っ転がり上腕の内側を上に向けて、重曹ペーストが落ちないようにしてしばらく待ちました。天井を一人虚しく見つめること5分ほど。ビリビリもかいかいもちっともなくならない!私はぶつぶつ文句を言いながら起き上がりました。落ちた白いペーストを見ながらさらにぶつぶつ。こうなったら、できるもの全部試そうじゃないか、そんなやけっぱちな気持ちで携帯を見ます。

酢。化粧落とし用コットンに酢を染み込ませ患部に貼ります。ビリビリに酢が染み込んでいる感じがします。これは効くかもしれない、という密かな希望を抱き、「私死なないかもしれないよ」と誰にともなくメッセージを送りました。15分ほど待ってさあ出来上がりとコットンを取ると、腫れもちょっと引いたような気がします。やった、生き延びたと思った瞬間、猛烈な痒さが襲ってきました。掻きむしってしまいたい、でも掻けない。あまりのもどかしさに怒りすら湧き、私はスーパーサイヤ人のようにメラメラと燃える炎の中で一人咆えていました。

そうこうしているうちに、すでに午後になってしまいました。「私、なんで薬局に行かなかったんだろう」冷静な私がそう呟く声も聞こえましたが完全無視で、私は家庭療法のリストに戻りました。アスピリンなし、肉柔化剤なし。カレンドラクリーム、なんだそりゃ。そして最後の希望、はちみつ。蜂刺されにはちみつなんてと半信半疑でしたが、家にあるものは全て試したのでとりあえず試すことにしました。スプーンに取るとタラタラしているはちみつですが、肌に乗せると急に重い感じがし、なかなか伸びません。それでもなんとか患部をカバーしました。問題は、塗ったはちみつがポタポタたれてくることです。ベタベタして後で掃除が大変なので、私はまた狭い部屋の真ん中に寝っ転がりました。腕をひねり幹部が天井を向くように。そして私も白い天井のペンキの塗りむらなんぞをぼんやりと見つめていました。

肝心の患部はというと、なんとなく暖かいんです。初めてマニキュアを塗った時の爪の感じというか、なんだか患部が呼吸していないような重い感じです。ちょっと痒みはあるけれど、痛みはかなり薄れました。待つこと15分。ぬるま湯で洗い流してみます。すると腫れがだいぶ引いているじゃないですか。「そりゃあそうさ、蜂にはやっぱりはちみつ。理にかなってるよね〜」などと調子のいいことを考えながら、私はやっと1日を始めることができたのです。その日私は痛痒くなるたびにはちみつを塗って過ごしました。問題は夜寝る時です。さすがにはちみつを塗って布団には入れないので、何も塗らずに寝たら夜中にボリボリ腕を掻いてその痛みで起きました。寝ぼけたまま台所へ行きはちみつの瓶を開け腕に塗ります。テーブルに腕を開いてのせしばらく待つのですが、あまりの眠さにうっかり頭を腕に乗せてしまいそうになりました。運良く髪の毛にはつきませんでしたが、おでこに見事にはちみつが。やれやれとおでこを洗い、また塗り直しです。そのあとのことはあまり覚えていませんが、朝布団の中にいたし、布団ははちみつフリーだったので、どうやら綺麗に洗い落として寝たようです。今サイトを見ると、「はちみつを塗ってその上から包帯などをゆるく巻いてカバーし1時間ほど待つこと」とありました。マニュアルはきちんと読むべきですね。

そういうわけで私は死なずにすみ、蜂刺されも2日後くらいには治まりました。やれやれと一安心して友達とピクニックをしていた1週間後、裸足の足をもゾッと動かした瞬間あの痛みが。。。今度はくるぶしの内側をブスリ。皆さんは私がこれをどうやって治したか、想像がつきますよね。

『ランスロットのはちみつケーキ』の作者紹介:

たむらしげる
1949年東京都生まれ。桑沢デザイン研究所修了。イラストレーション、絵本、マンガ、映像作品、広告デザインなど幅広く活動。 主な絵本に、『ありとすいか』(ポプラ社)、『よるのさんぽ』(架空社)、『ゆきゆきゆき』、『おばけのコンサート』(ともに福音館書店)、『ニットさん』(イースト・プレス)、『ランスロットとパブロくん』(偕成社)など。『よるのおと』(偕成社)で、第65回産経児童出版文化賞大賞を受賞。 絵物語に『夢の旅』(静山社)、『モービーディック航海記』(ソニーマガジンズ)、 ビジュアルブックに、『ファンタスマゴリア』、『メタフィジカル・ナイツ』(ともに架空社)、『水晶山脈』(アノニマスタジオ)、 映像作品に『銀河の魚』(毎日映画コンクール大藤信郎賞)、『ア・ピース・オブ・ファンタスマゴリア』、『クジラの跳躍』(文化庁メディア芸術祭アニメーション部門大賞)などがある。


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