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【絵本レビュー】 『じごくのさんりんしゃ』

作者/絵:あさおよう
出版社:フレーベル館
発行日:2020年4月

『じごくのさんりんしゃ』のあらすじ:

ちょっと怪しいお店「さんりんどう」で、新しい三輪車を買ってもらったよ。さっそくあそびに出かけると…いつもの世界が、地獄に早変わり!

『じごくのさんりんしゃ』を読んだ感想:

三輪車に乗った記憶というのがあまりなく、子供の頃の写真を見る限りどうやら所有したこともないようなのですが、地獄と言って思い出すのはある坂道です。

幼稚園に上がっていたので私は当時4歳、よくある「ちゃんと抑えてるから大丈夫」という嘘をつかれて補助輪なし自転車に乗れるようになり、それとともに「親は嘘をつく」という人生初の劇的発見も経験した後のことです。私は父に連れられてよく大きな池のある公園に行きました。すごく遠いというわけではないのですが、行き着くまでに一つ難関があったのです。それは地獄の坂道。14インチくらいの小さな自転車に乗る小さな私にとって、その坂は垂直な壁に見えていました。そこを上がると公園の入り口なのですが、そこを上りきらなくてはなりません。その時父はロードバイクに乗っていたので、余裕で坂を登って行きます。岸壁の途中で止まって優雅に眼下を見渡すなんて余裕もあって、「お前はカモシカかい」と今なら悪態もついたでしょうが、4歳の私はただ父に置いていかれたくない一心で子ネズミみたいにくるくるとペダルを漕いで見るのですが、坂は私がペダルを漕ぐたびにパスタ生地みたいに伸びていく気がしました。

最初はまっすぐ登って行こうとしましたが、立って漕いでも自転車はピタリと止まり上に進みません。パタリと横に倒れてしまいます。何回か繰り返したら嫌になってしまってぐずり始めると、父が「こうやって登るんだ」と言って日光のいろは坂みたいにジグザグに登って行きます。簡単そうです。それはそうですね、ロードバイクですから。でも私は早速挑戦してみることにしました。ペダルは重く、あまりにゆっくりなので自転車もフラフラ揺れていますが、今度は少しずつ上がっています。立って漕いで、座って漕いで、また立って漕いで。なんとか半分まで登りました。足も疲れてガクガクです。「いいじゃないか」父が崖すれすれに飛ぶツバメみたいに坂を登ったり降りたりして、私の様子を見に来ます。「もう限界」と足をつきそうになると、「途中で足つかなかったら、アイス買ってやるぞ」と言うではないですか。甘いものを滅多に食べさせてもらえなかった私にとっては、格好の餌です。「アイスのためならえ〜んやこら」と当時の私が思ったかどうかはわかりませんが、私は必死にペダルを漕ぎました。歯を食いしばって登りながら、父がニヤニヤとしているのがチラリと見えました。

後もうちょっと。坂の終わりが見えて来ています。「ほうら、後少しだぞ!」父の声も遠くに聞こえます。私はただがむしゃらに漕ぎ続けました。そして。。。やりました。ついに登り切ったのです! 登ったすぐのところにキオスクがあって、アイスも売っていました。きっと父は前もって見ていたのですね。私はちゃんとアイスにありつくことができました。滅多に食べることがなかったこともあるけれど、坂を登り切った後のアイスはひときわ美味しかったことを覚えています。


『じごくのさんりんしゃ』の作者紹介:

あさおよう
1984年、京都生まれ、沖縄在住。2018年に岡谷市・イルフ童画館主催の第9回武井武雄記念 日本童画大賞という絵本コンペ(絵本部門)で大賞を受賞し、その共催をされているフレーベル館から『トカゲのともだち』で2019年2月にデビュー。『じごくのさんりんしゃ』(有田川町絵本コンクール2017年優秀賞)が4月に出版。最近では沖縄の地元紙琉球新報のweb版 琉球新報Style 本村ひろみの時代のアイコンにて紹介。


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