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【絵本レビュー】 『おおかみのおなかのなかで』

作者:マック・バーネット
絵:ジョン・クラッセン
訳:なかがわちひろ
出版社:徳間書店
発行日:2018年12月

『おおかみのおなかのなかで』のあらすじ:

ある朝、ねずみは、おおかみにぱくっと食べられてしまいました。ところが、おおかみのおなかのなかには、あひるがすんでいました。あひるは「ここは、すみごこちがとってもいいから、外の世界にはもどりたくない」と言います。そこで、ねずみは…?

『おおかみのおなかのなかで』を読んだ感想:

だってさ、そとに いたときは、いつ おおかみに ぱくっと くわれるかって びくびくしてたけど、ここなら しんぱい いらないだろ

おおかみに食われしまったねずみに先住者のあひるが言いました。

いつ食われるかわからずに怯えながら生活するのは、さぞかし生きた心地がしないことでしょう。どこで読んだか覚えていませんが、長年にわたり逃げ続けていた犯罪者がやっと捕まった時、とてもホッとしていたのだそうです。ようやくゆっくり眠ることができたのかもしれませんね。

前にもお話ししましたが、子供の頃の私はテレビを見ることを禁止されていました。でも家にはテレビがあったし、スクリーンだけの方も父がするのをみて配線を覚えていたんです。だから父がいなくなった隙をみて、私は隠れてテレビを見ていました。もちろん父が出かける時間は決まっていないし、日中の番組は子供が楽しめるようなものではありませんでしたが、私はテレビが観れるというだけで大満足でした。

楽しいことは楽しかったのですが、門の開く音を常に気にしていなくてはいけないので、音量も大きくできないし、暑くたって窓も開けられません。庭の方で何か音がしたように感じたらすぐにテレビを消して自分の部屋に戻ります。

大変なのはスクリーンで見ている時です。配線を戻す時間もあるので、門が開く音がしてしまったらもう間に合いません。なので大抵は父の出て行った時間を覚えていて、そろそろ帰ってくるかもしれないという時間にはスクリーンを切って配線を戻します。時には出て行く父にさりげなく、「どのくらいで戻るの?」なんて聞くこともありました。でも父が私が何か企んでいることを悟って嘘を言うかもしれません。一時間と言われても大抵は三、四十分で切るようにしていました。

いつ帰ってくるのだろうということが気になって、結局はテレビに集中できていたことはないと思います。もちろん内容が昼ドラや芸能人のゴシップ番組だったことは救いでした。もしアニメだったり、クイズ番組だったりしたら、私は門の音のことなどすっかり忘れてしまって、こっぴどく怒られたことでしょう。

それでも見つかったことは何回かありました。時々何か面白い番組があって没頭してしまい、父が帰ってきた音を聞いて慌ててテレビを消し自室に戻って本を読んできたふりをしたものの、何か怪しい空気を感じた父がテレビを触ってバレてしまったのです。
「テレビ見てたろ!」
「見てないよ」
「嘘つくな!あったかいじゃないか!」

そこまで明確な証拠を突きつけられてしまっては反論の余地はありません。幸い「これから一週間テレビなし」という罰はなかったのですが、その度にお小遣いが激減して行ったのは辛かったです。大抵は母に泣きついていましたけれど。

ただ、見つかってしまった方がホッとするんです。父が帰ってきてすぐに怒られなくても、テレビの部屋をちゃんと元どおり戻しておいたかなとか、テレビの電源ちゃんと切っておいたかなとか、ふすまをちゃんと閉めておかなかったかもなど、いかなる細かい点にも落ち度はなかったかその午後中考えていることが多く、他のことをしていても身が入らなかったりしました。だから怒られるのは嫌だったけれど、見つかってしまった方がその居心地悪さが続かず、胃には優しかったように思います。

さてさてこのおおかみさんでしたが、なんだかあひるとねずみにうまいように使われてしまって、とんだものを食べてしまったなって後悔したでしょうね。


『おおかみのおなかのなかで』の作者紹介:

マック・バーネット(Mac Barnett)
1982年、米カリフォルニア生まれ。“Billy Twitters and his Blue Whale Problem”など、絵本のテキストを何作も手がける。『アナベルとふしぎなけいと』で、2012年ボストングローブ・ホーンブック賞を受賞。アメリカ、サンフランシスコ在住。


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