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【絵本レビュー】 『ねこのくにのおきゃくさま』

作者/絵:シビル・ウェッタシンハ
訳:まつおかきょうこ
出版社:福音館書店
発行日:1996年4月

『ねこのくにのおきゃくさま』のあらすじ:

ねこの国におかしな仮面をかぶった2人組がやってきました。2人が踊りをおどると、そのすばらしいこと! でも、王様から仮面をとるように言われます。さて、2人の正体は……?

『ねこのくにのおきゃくさま』を読んだ感想:

「ねこのくにのひとたちは、はたらくことはしっていました。
でも、たのしむことはしりませんでした。
このくにには、おんがくもおどりもなかったのです。」

ハッとしました。私は、楽しむように育てられなかったと思ったからです。子供の頃色々とさせてもらったおかげで、多くのことをそれとなくこなすことができます。ピアノも習わせてもらえたし、水泳もジュニアオリンピックの予選まで出れるくらいまで泳げるし、スキーも子供の教えられるくらいになりました。勉強も程よくこなせて、校内で10位以内にはいつも入れていました。なんでも「ちゃんと」できる子供でした。でもそれは「これができれば大きくなったら〇〇になれる」という目的のためであって、楽しむためではありませんでした。

ピアノを習っていたのは、「ジャズピアニストになれば世界を旅して回れるようになるから」で、父はそのために海外で通用するような名前を私につけたとさえ言いました。

水泳を習わせられたのも、オリンピックに出れるようになるため。「お前の名前が世界に知れ渡るんだぞ」、とは父の期待でした。夏の休暇でも海やプールでは大抵人混みを避けながらガシガシとラップをさせられて、遊ぶということはあまりありませんでした。スキーも同じ理由でしたから、家族でスキーへ行っても私は一日中クラスに入れられて、クラスに入らない日も「何時までにこのコースを○回滑ること」と言われ、遊んだ覚えはありません。

なのでピアノも水泳もプレッシャーに負けて辞めてしまった時、父はとてもがっかりしていましたが、私はなんだかホッとして、そのあと自分が楽しむために弾くという気にも泳ぐという気にもなりませんでした。それでも基礎は「ちゃんと」ありますから、ある時旦那(当時は彼氏)と通っていたスイングのクラスの後、部屋の隅にあったピアノを弾いたんです。ピアノを辞めてから新しい曲を練習したことはなかったので、そらで覚えているのは最後の発表会で弾いた「ガボット」です。なのでその最初の部分を弾きました。すると彼の顔がパッと輝き、そのあと一日中「ピアノ弾けるんだね〜」とその話ばかりしていました。そしてなんとその歳の誕生日に、小さな電子ピアノをプレゼントしてくれたのです。「これでさスイングの曲を弾いて、みんなで踊ろうよ」と彼の夢は膨らみます。

でも弾けないんです。弾いたのはすでに持っていた教本の中の曲だけで、みんなで歌える曲や踊れる曲を未だに弾いたことがありません。我が家で踊ることなんてなかったので、どんな曲が踊れる曲なのかも知りませんでした。旦那がいくつかプリントアウトしてくれましたが、どれも全く知らないリズムで、すでに私のモチベーションは下がっていました。旦那曰く、「リズムに合わせてチャチャーンって弾けばいいんだよ」と言いますが、私の頭の中では「きちんと弾く」ことが重要なので、まずリズムに慣れなくちゃなどと考え始め全く遊べないのです。なのでピアノは埃をかぶったまま何年も部屋の隅に居座っています。

プールへ行っても同じです。水に入ると遊べなくて、ただ水に浸かっているのも時間の無駄のように感じて、大抵友人をおいて私は一人で泳ぎ始めてしまいます。数回ラップを終えるとなんだかプールに来た意味があったと安心して、あとは水の中ではしゃいでいる人たちを見ているだけです。

絵本の猫たちは音楽も踊りも知らなかったので楽しめなかった言い訳になりますが、私はその存在を知っていながら楽しめないのでたちが悪いです。うちの4歳児にもついつい「ちゃんとやりなさい!」と何かも合理的にさせようとしてしまうのです。子供は遊びながら学ぶとわかっているのに。目的を持たずにただ楽しむ方法を知っている方、教えてくださいな。

『ねこのくにのおきゃくさま』の作者紹介:

シビル・ウェッタシンハ(Sybil Wettasinghe)
1928年、スリランカ南部の街ゴール郊外に生まれる。6歳のとき、教育を受けるため、両親とともにコロンボに移り住む。その後、独学で絵を学び、本などに挿絵を描くようになる。17歳のときには、地元の新聞社で働きはじめ、子ども向けの記事やコラムをイラスト入りで執筆し、同時に次々と作品を発表し、スリランカの古い生活習慣や民族文化を切り取った物語は、母国だけでなく北欧や米国、日本でも翻訳され多くのファンを持つ。代表作に「かさどろぼう」(第3回野間絵本原画コンクール佳作)「にげだしたひげ」「きつねのホイティ」「ねこのくにのおきゃくさま」「わたしのなかの子ども」(幼年記)などがある。。2020年逝去。


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