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【絵本レビュー】 『ぼくがきょうりゅうだったとき』

作者/絵:まつおかたつひで
出版社:ポプラ社
発行日:2011年7月

『ぼくがきょうりゅうだったとき』のあらすじ:


誕生日のプレゼントにとどいた恐竜の着ぐるみパジャマ。
ぼくは、うれしくて着たまま、公園へ遊びに行きます。

ところが、本物の恐竜がやってきて「ぼくたちの世界へ遊びにおいでよ! 」だって!

『ぼくがきょうりゅうだったとき』を読んだ感想:

うちの4歳児がスペースシャトルの次に好きなのが恐竜です。「てぃーれっくす」だの「でぃぷろどくす」だのと難しい名前もちゃんと覚えていて驚かされます。時々本棚から恐竜の本を出して眺めていることもあるのですが、あの小さな頭の中で恐竜ってどんな世界に住んでいるんでしょうね。

恐竜といって思い出すのは一人の男の子です。私がロンドンのある小学校でアシスタントとして働いていたときに幼稚部にいたOくんです。Oくんは本当に恐竜が好きで、毎日毎日恐竜ばかり描いていました。5歳とは思えないくらい上手に迫力ある恐竜が描かれていて、いつも得意そうに見せてくれました。ある朝学校に到着したOくんは「見て見て」と家で描いた絵を見せてくれました。「ぼくの家族」と開いた紙の中には、4匹の恐竜がいました。パパもママも弟もみんな恐竜です。Oくんが恐竜になりたかったのか、それとも彼の見ている世界ではみんな恐竜なのかはわからずじまいでしたが、私はOくんの絵を見るのが毎日楽しみでした。

ある日、Oくんを迎えに来たお母さんが話しかけて来ました。私はこの学校で、英語を勉強する代わりにアシスタントとして働いていたので、正規の先生ではなかったことはこのお母さんも知っていたと思うのですが、なぜかこの日近寄って来て言ったんです。
「うちの子、毎日毎日恐竜の絵ばかり描いていて、大丈夫なのかしら」

私は正直何が悩みなのかわからなかったのですが、ある一人の漫画家のエピソードを思い出しました。かなり有名な方なのですが、子供の頃、欲しいものがあると手に入れるまでその絵ばかり描いていたんだそうです。ある時、馬が欲しくなって毎日馬の絵ばかり描いていたんだとか。さすがに本物の馬は買ってもらえなかったそうですが、立派な漫画家さんになりましたよ。そうOくんのお母さんにお話ししました。Oくんの描く恐竜の絵は、優れた観察力によるものです。将来は考古学者になるかもしれないし、絵描きになるかもしれませんよね。少し待ってあげてもいいのかもしれないですね、と付け加えました。Oくんのお母さんは、少しホッとしたように見えました。あれから20年が経とうとしています。Oくんももう立派な青年のはず。私の中の彼はいつまでたっても漫画みたいに大きな目をした男の子ですが、一体どんな大人になったのかなと、時々あの時の会話を思い出します。

『ぼくがきょうりゅうだったとき』の作者紹介:

まつおかたつひで(松岡達英)
1944年新潟県長岡市に生まれる。自然科学、生物のイラストレーター。創作絵本のほか、国内はもとより、中南米、アフリカ、東南アジアなど世界各地での取材にもとづく、多くの科学絵本を発表している。 『すばらしい世界の自然』(大日本図書)で厚生省児童福祉文化賞、『熱帯探検図鑑』(偕成社)で絵本にっぽん賞、『ジャングル』(岩崎書店)で厚生省児童福祉文化賞と日本科学読物賞を受賞、『震度7』(ポプラ社)で産経児童出版文化賞、『里山百年図鑑』(小学館)で小学館児童出版文化賞を受賞。 主な絵本に、『ぴょーん』(ポプラ社)、『だんごむしそらをとぶ』(小学館)、『ちきゅうがウンチだらけにならないわけ』(福音館書店)などがある。

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