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【絵本レビュー】 『ハーニャの庭で』

作者/絵:どいかや
出版社:偕成社
発行日:2007年4月

『ハーニャの庭で』のあらすじ:

猫のハーニャがすんでいる、山のとちゅうの小さな家の小さな庭。その庭を舞台に、季節のうつりかわりを愛情をこめて描いた絵本。

『ハーニャの庭で』を読んだ感想:

久しぶりにお気に入りの作家どいかやさんの絵本です。しかも猫の話。これは読むしかないでしょう、というわけで入手しました。絵がとても綺麗なのでうちの4歳児も読み終わった後にすぐまた開いてイラストを眺めていました。そんな癒される午後。

小さな家に小さな庭と聞くと、私はやっぱり小学校から高校にかけて住んでいた家を思い出します。当時築30年の平屋の家の玄関は引き戸で、鍵は内側についている打掛錠だけ。よくもまあ一度も泥棒に入られずに済んだものです。家には小さいけれど前庭と裏庭がありました。前にはにはモクレン、沈丁花、柿の木、山吹、桜の木、紫陽花があり、裏庭には直径5、60cmほどでしたが竹やぶと紅葉の木がありました。季節ごとにそれぞれの木に花が咲き、私は庭で花を摘んでおままごとをしたりしました。暖かくなると門の前にある沈丁花が一斉に花を咲かせ、それを目当てに色々な蜂がやって来ました。時には熊蜂もやって来て私は門へ辿り着けず、横にある勝手口用の門を飛び越えて出て行ったことも何度もありました。

秋になると柿の実がなるのですが、いつも取りたちに食べられてしまい、私は一度も綺麗な形の柿を手にしたことがありませんでした。おまけに熟した秋がボタボタ地面に落ちて、家の前の道は半分潰れた柿が何個もあって、下手に靴で踏んだりすると滑ってしまいます。それを父に命じられて掃除するのが嫌で嫌で。道に張り付いているので、ちりとりでこそげ落とさなければならないのですが、中には踏まれていてアスファルトに入り込んでいて、なかなかの重労働なのです。どうせ食べれない柿で、しかも手間ばかりかかるから切ってしまえばいいのに、と毎年秋になると思ったものでした。

庭で遊んでいると、外遊びをして来た我が家の猫が帰って来て挨拶をしに来ました。それが済むと彼は家に入るのですが、彼の玄関はトイレの足元にある10cmほどの高さの窓です。トイレの中では足元だけれど、外からだとその小窓は地面から60cmほどのところにあります。家の壁と外壁の幅は、小学生が普通に歩けるくらいで、大人はやや横向きに歩かないとなりません。でも猫の彼は窓の真下に座って入口の幅を見極めると、サッとジャンプして垂直に家に入り込みます。いつも感心してみていたのですが、ある日目撃してしまいました。彼はいつものように窓の下に座りジャンプしたら、頭を窓の枠にぶつけ、もんどり打ちながら外壁に当たり、そのまま地面にベタッと音を立てて落ちました。「あっ」と思ったのは私だけではありません。猫は気まずそうな感じで私の顔を横目で確認。まるで「見られていなかったかも」とでも言いたげです。そして何気ない風を装ってまた仕切り直し。今度は無事入りましたが、先ほどの失敗を口にしてはいけないのは、猫と私の暗黙の了解となったのでした。

その猫が交通事故で死んでしまったのですが、彼を埋めたのもこの庭でした。金魚を溺れさせて死なせてしまった時も、庭に埋めました。猫が生きていた時、得意げに持って来てくれた小鳥も埋めました。木蓮の花びらを何枚も押し花にしたし、山吹の茎を使って父と竹鉄砲の玉も作りました。本当に小さな庭だったけど、私のハーニャもいたいつも戻りたいと思う庭なのです。


『ハーニャの庭で』の作者紹介:

どいかや
1969年、東京都生まれ。東京造形大学デザイン科卒業。絵本の作品に『パンちゃんのおさんぽ』『いたずらコヨーテキュウ』『やまねのネンネ』(BL出版)、『みけねこキャラコ』『こねこのポカリナ』『おはなのすきなトラリーヌ』『トラリーヌとあおむしさん』『ふゆのひのトラリーヌ』(偕成社)、『チップとチョコのおでかけ』『チップとチョコのおつかい』『チップとチョコのおるすばん』(文溪堂)、『くりちゃんとひまわりのたね』『くりちゃんとピーとナーとツー』(ポプラ社)、『チリとチリリ』『チリとチリリ うみのおはなし』『チリとチリリ まちのおはなし』(アリス館)、『ねずみちゃんとりすちゃん おしゃべりの巻』(学習研究社)、『カロンとコロン はるなつあきふゆ4つのおはなし』(主婦と生活社)、『ねこのかあさんのあさごはん』(小学館)など多数。千葉県在住。


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