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【絵本レビュー】 『おちゃのじかんにきたとら』

作者/絵:ジュディス・カー
訳:晴海耕平
出版社:童話館出版
発行日:1994年9月

『おちゃのじかんにきたとら』のあらすじ:


ソフィーとお母さんが、お茶の時間にしようと腰をおろした、ちょうどその時、玄関のベルがなりました。いったい誰かと思ったら、なんと、大きなトラだったのです。トラは、お茶のごちそうになろうとやってきたのでした。

『おちゃのじかんにきたとら』を読んだ感想:

私は突然のお客さんが大好きです。うちは散らかっていることが多いので、それはちょっと恥ずかしいのですが、でも急に誰かが「近くまで来たから」と立ち寄ってくれるのは、とても嬉しいことです。まあ、うちの男子陣は道や公園で気があった人たちを夕食に連れて来てしまうので、それはちょっと困ることも多いんですけどね。

私が育った家は、とてもお客さんの少ない家でした。誕生日会もしなかったし、突然お客さんが来てお茶を飲んでいく、ということもありませんでした。来る人といえば、私の家庭教師と年に数回学校の友達を連れて来たときくらいでした。大学の部活で部員の家を襲撃するという習慣があって、あるとき東京を横断してわざわざ来てくれたことがありました。その時うちには父がいたのですが、「約束もなく人の家を訪ねて来るなんて非情だ」とかなり不機嫌になり、部屋にこもってしまいました。後に残された私たちは気まずい雰囲気。

それとは対照的に、私の書道の先生のうちにはちょくちょく人が訪ねて来ました。生徒さんではない、お客さんです。アパートの隣のおばさんがおすそ分けに来たり、誰かが集まりに呼びに来たりと、先生はいつも人に囲まれて楽しそうでした。私がお稽古に行くと大抵午後のNHKの大河ドラマを見ていたのですが、それを横目で見ながらいそいそとお茶を入れてくれます。暑い夏でも暑いお茶で、「先生お水ください」と言ったら、「暑い時に冷たいものを飲むと身体がびっくりするんですよ」と言ってやっぱり暑いお茶を出して来ます。時々「お菓子を買って来ましたよ」と言って和菓子をくれることもありました。実は私、大のあんこ嫌いで、勢いをつけて食べてお茶で飲み込むという感じだったのですが、先生は「もっと食べなさい」と勧めて来ます。絵本のとらさんとは大違いですね。私はいつのまにか先生の茶飲み友達になっていることに気づきました。一応座って練習もするのですが、終わってもなかなか返してもらえません。当時大学生の私は先生の近所から引っ越して、東京の反対側の2時間近くかかるところから通っていたので、終わったらさっさとショッピングでもして帰りたいというのが本音でした。しかし先生はまたお茶を入れなおして、テレビを見ながら思い出話などをポツポツとし始めるのです。「そっか、私は先生の茶飲み仲間なんだ」そう気づいて、私は急いで帰ることもなくなりました。

今でも暑い夏に暑いお茶を入れます。旦那に「こんな暑い日に暑いお茶なんて嫌だよ」と言われることもありますが、そんな時私は先生が浮かべていたのと同じような微笑みを浮かべ(ているつもり)、「暑い時にね冷たいものばかり飲むと、身体がびっくりしちゃうんだよ」というのです。


『おちゃのじかんにきたとら』の作者紹介:

ジュディス・カー (Judith Kerr)
1923年、ベルリン生まれ。ナチスの迫害をのがれ、スイス、フランスに移住したのち、1936年渡英。ロンドンの美術工芸学校に学ぶ。テキスタイル・デザインの仕事やBBC放送の脚本担当などを経て、絵本を手がけるようになる。1970年に刊行された『わすれんぼうのねこ モグ』にはじまるモグのシリーズは今も愛され、読みつがれている。他の作品に『おちゃのじかんにきたとら』(童話館)、『もう一羽のがちょう』(評論社)などがある。

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