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【絵本レビュー】 『やっぱりたまごねえちゃん』

作者/絵:あきやまただし
出版社:鈴木出版
発行日:2007年6月

『やっぱりたまごねえちゃん』のあらすじ:

おねえちゃんだもん、もう甘えん坊は卒業! と思ったら…。妹のわがままに翻弄されるたまごねえちゃんはへとへとになってしまいます。でも、お父さんがずっと優しく見守っていてくれました。あたたかく強い親子のきずなが、ちりばめられたユーモアとともに描かれました。


『やっぱりたまごねえちゃん』を読んだ感想:

私は一人っ子なので兄弟姉妹がいる生活というのが想像できませんが、一度だけ擬似姉妹体験のようなことはありました。

小学校に入った時のこと、入学式で一人の女の子が割と近所に住んでいることがわかりました。しかも彼女にはお姉ちゃんが二人いて、いつも三人で登校しているので、最寄駅で朝待ち合わせをしようということになったのです。最初の一、二週間は毎朝父が同行してくれましたが、そろそろ一人で行かなくてはならない時期で、それでもやはり六歳児が一人で電車に乗って登校することに父も不安があったのでしょう。この同級生のお母さんの申し出をありがたく受けました。

三姉妹は最寄駅まで数駅ですがバスに乗ってきます。私は父と駅まで行って三姉妹を待ちました。一番上のお姉ちゃんは六年生。すらりと長身で、規制の帽子もランドセルもすでに小さくて身体に合わず、ちょっと面白かったのをおぼえています。二番目のお姉ちゃんは四年生。いつもニコニコしていますが、静かな感じでした。

一番上のお姉ちゃんは私のことをとてもよく可愛がってくれて、時々実の妹よりも優しく接してくれたので、幼い私の目からも友人があまり好ましく思っていないことが感じられました。でも私は大きいお姉ちゃんに守られていることをとても楽しんでいました。話も聞いてくれるし、電車に乗った時は潰れないように気を使ってくれたり、「富士山が見えるよ」って教えてくれたり。お姉ちゃんを持つってこんなことなのかなって、私は夢見心地でした。

「ねこふんじゃった」の弾き方を教えてくれたのも、このお姉さんです。週末に友達のお母さんから「お茶にいらっしゃい」と誘いがあって、私はよく遊びに行きました。小学校に入って初めて友達の家に泊まりに行ったのも、彼女の家です。家に遊びに行くと大抵お姉ちゃんたちもいて、一緒に遊んでくれました。家には茶色いアップライトピアノがあって、一番上のお姉ちゃんが練習していました。練習が終わったのか、それとも飽きてしまったのか、私の方を向いて「何か曲を教えてあげるよ」と言いました。私は当時ピアノを習っていたけれど、いつも聞いたこともないようなクラシックの曲ばかりで、みんなで歌えるような曲は弾けなかったので、「ねこふんじゃった」はとても楽しく感じました。特に、大きなお姉ちゃんと一緒に椅子に座って弾くのは、楽しさも倍増です。「私のピアノの先生も、こんな風に優しく教えてくれたらいいのにな」とさえ思いました。このお姉さんのおかげで、私は一日で「ねこふんじゃった」と「こねこふんじゃった」をマスターしたのです。

私が二年生になるとお姉さんは小学校を卒業してしまい、あまり会うことがなくなりました。学校へも朝は一人で行くことが多くなりました。さらにその後すぐ私たちは別の区へ引っ越してしまったので、通学路が全く違ってしまったのです。週末も前ほど会わなくなってしまいました。

二番目のお姉ちゃんには大きくなってからも学校のイベントで会いましたが、一番上のお姉さんにはそれから数年前まで会いませんでした。

数年前、友達のお母さんが病に倒れたと母から聞きました。症状は重く、最期は家で迎えさせたいということで、おばさんは家で介護を受けていました。私はその時期息子を連れて帰国予定だったので、着いてすぐにおばさんを訪ねて行きました。

その時に二人の女の子のお母さんになっているお姉さんに会ったのです。六歳の私がなりたいと思っていたスラリと背の高いお姉さんの顔を、私はもう見上げる必要がありません。私はお姉さんの背丈を追い越してしまっていたのです。それでもお姉さんは私を見ると、あの時と同じように優しく、温かく接してくれました。二番目のお姉さんも相変わらずのちょっと変わったユーモアで私の息子と遊んでくれています。私はなんだか家に戻ってきたような気がしました。不思議ですね、私のお姉さんじゃないのに。

おばさんはその訪問の数週間後に亡くなりました。期せずしてまた友達の家に行くことになりました。先日の訪問とは打って変わって私たちは喪服を着て、どの顔を悲しみに沈んでいます。長女であるお姉さんは、祭壇の前でおばさんに最後の別れをしに来たお客さんたちに挨拶をしています。私の顔を見るといつものようににっこりして抱きしめてくれました。本当は私が先に抱きしめてあげなきゃいけなかったのに。私の母がお姉さんを抱きしめると、お姉さんは声をあげて泣き始めました。お姉さんだって、誰かに優しく抱きしめてもらいたいんですよね。だっていつも小さな妹たちを心配して、面倒見ているばかりですから。

次に会った時は私から先にぎゅっとしてあげたいなと、この絵本を読んでいて思いました。       


『やっぱりたまごねえちゃん』の作者紹介:


あきやまただし
1964年東京生まれ。東京芸術大学デザイン科卒業。 「ふしぎなカーニバル」(講談社刊)で講談社絵本新人賞、「はやくねてよ」(岩崎書店刊)で日本絵本大賞受賞。NHKでおなじみのアニメ「パンツぱんくろう」の作者。 「まめうし」シリーズ(PHP研究所)、「たまごにいちゃん」シリーズ(鈴木出版)、「へんしん」シリーズ(金の星社)など絵本作品多数。全国各地で開催する絵本ライブも人気を博しています。


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