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【絵本レビュー】 『トマトさん』

作者/絵:田中清代
出版社:福音館書店
発行日:2006年7月

『トマトさん』のあらすじ:

ある暑い夏の日、真っ赤に熟れたトマトさんが、地面に、どったと落ちてしまいます。ミニトマトたちは小川へ「ころころぽっちゃん」と飛びこんでいきますが、トマトさんは体が重くて転がっていけません。太陽に照らされているうちに、トマトさんは、どんどんあつくなってきて……。


『トマトさん』を読んだ感想:

ママさんたちとの絵本交換会でこの絵本を見たとき、一目惚れしてしまいました。表紙いっぱいに広がるトマトと美輪明宏さんみたいな顔。これが惚れずにいられるでしょうか。

トマトといえば、私はあまりトマトが好きではありません。ビジュアル的にもコンセプトも好きなのですが、いざ食べるとなるとあまり気が進まないのです。特に苦手なのが、サラダに入っているあの三日月みたいな形のトマトです。皮も口の中に残るし、味もなんだかそぐわない気がします。今は大丈夫ですが、子供の時はトマトの種周りのグジュグジュが本当に嫌でした。

それなのにどこで読んできたのか、当時の父はトマトに凝っていて、二日に一度ほどトマトを丸ごと食べさせられていました。学校から帰ってくると私を待ち構えているそれが、私には恐怖であったのです。

父は拳ほどのトマトを熱湯に通し皮をむきます。下手だけとった丸ごとのトマトが皿に置かれて目の前に置かれます。見ているぶんには、美しいとさえ思えるトマトでした。食べ方は自由です。塩をかけてもよし、ドレッシングでもマヨネーズでもよし。全部試しましたが、手が進むのはいつも最初の数口だけです。マヨネーズをどんなにかけても主張するトマトの味は、まるで「食わないでくれえ」とでも言っているかのようでした。

このトマト地獄は、父が次のターゲットを見つけるまで続いたのですが、この後のほうれん草時代がトマト時代より良かったかと言われると、そうではありませんでした。でもほうれん草時代の話はまた後日。

息子のトマトに対する気持ちに気付いたのは、彼がようやく話し始めた頃でした。「これなあに」と聞いた時に間違えずに答えられたものの一つがトマトでした。買い物を冷蔵庫にしまっている時も、トマトを見るととても嬉しそうに「トマト!」というので、上げてみることにしたのです。

「トマト、食べたい?」
「トマト〜」とニコニコする息子。

私はお皿にトマトを切っておいてみました。さらに目をやってとても不愉快そうな顔を向ける息子。「それがトマトだよ〜」という私を責めるように見つめる目。息子の訴えることがわからず、私はトマトを一つ摘んで口に入れました。
「う〜ん、おいしいトマト!」
そう言いながら、別の一切れを息子の口元に持っていきます。口を一文字に結んで拒否する息子。知らない食べ物でも好きだと思えばなんでも食べる子なので、不思議だなと思いつつもう一回勧めてみました。でも息子は怖い顔をしてお皿を押し戻してきます。

それ以降、どんなことをしても息子はトマトを食べません。でもトマトソースやケチャップは大好きなので、なんだか不思議ですよね。そうしてよく観察していると、旦那もトマトを食べないのです。外食する時もサラダについてくるトマトはいつも端によけてあります。面白い。食べ物の好みって遺伝するんでしょうか。トマト嫌い x トマト嫌いはかなりの確率でトマト嫌いが生まれるとか。

そんなわけで、我が家の食卓でミニトマトを含め、トマトがゴロりんと登場することはありません。それでもスーパーでトマトを見るたびに、その素敵な赤い身体を愛でたくなってしまうのであります。


『トマトさん』の作者紹介:


田中清代
1972年生まれ。絵本作家、銅版画家。多摩美術大学絵画科にて油絵と版画を学ぶ。1997年「みずたまのチワワ」(井上荒野/文)の出版以来、絵本を中心に制作。『くろいの』(偕成社)で、第25回日本絵本賞大賞、第68回小学館児童出版文化賞を受賞。主な絵本作品に『おきにいり』(ひさかたチャイルド)、『おばけがこわいことこちゃん』(ビリケン出版)、『ねえ だっこして』(金の星社)、『トマトさん』(福音館書店)他多数。



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