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【絵本レビュー】 『そらからきたこいし』

作者/絵:しおたにまみこ
出版社:偕成社
発行日:2018年9月

『そらからきたこいし』のあらすじ:

あるとき、女の子はほんのすこしだけ地面から浮いている小石を見つけました。不思議に思ってしらべはじめますが、誰に聞いても、本を読んでも、「うかぶ小石」のことはわかりません。でも、女の子がよく探すと、うかぶ小石はいろんなところですこしずつ見つかって……。


『そらからきたこいし』を読んだ感想:

最近、しおたにまみこさんのイラストにはまっています。子供の絵本にしてはちょっと暗めのイラストが、ミステリアスな雰囲気を醸し出しています。まだ全部読んでいませんが、これから出てくる新作がすでに楽しみです。

残念ながら浮かぶ石に巡り合ったことはありません。でもその場にそぐわないものを見つけることは時々あります。

ある日の夜、息子も寝てしまったので、旦那と私はお茶をすすりながら珍しくスピリチュアルな話をしていました。するとまず、暗い空から低いエンジン音が聞こえてきました。空港が割と近いので飛行機が定期的に通るのですが、いつも聴き慣れているその音とは違います。ヘリコプターの音でもありません。とても大きなエンジンのような、周囲の空気を震わせるほどの低い音が長く続いています。旦那と私は顔を合わせ、黙ってそれが通り過ぎるのを聞いていました。

そしてその後、私たちはまた先ほどの話に戻ったのですが、ふと目の前の本棚の角に止まっているあるものに気づきました。緑色の虫のようなのですが、カマキリでもないしバッタでもありません。見たこともないほどの薄い緑色をしたその虫に、私は吸いつけられたように見入っていました。

「何見てんの?」という旦那の声に我に返り、その緑のものを指さしました。旦那も近づいて見てみます。

「こんな色見たことない。地球のものじゃないみたい」
そう言ってしばらくその虫を見つめていました。確かに色ばかりでなく、こんな形の虫を見たことがありませんでした。そんな虫が家にいることが場違いのように感じられました。

その夜はその虫をそのままにし、朝になったらすっかり忘れてしまいました。その数日後、息子との買い物の帰り道のことでした。息子はかくれんぼが大好きなので、彼が道端の何かに気を取られている間に、私は建物の陰に隠れました。私はしゃがみこんで小さくなっていたのですが、ふと壁に目をやると、あの虫がいるではないですか。もちろんあの夜と同じ虫だとは思えないのですが、透き通るような黄緑色と、見たことのない形は同じでした。私はその虫をしばらくじっと見ていました。

「みーつけた!」
ケラケラ笑う息子の声でハッとしました。そうそう、かくれんぼをしていたんでしたっけ。
「見てほら、不思議な虫がいるよ」
息子に見せましたが、
「へえ、ほんとだねえ」
あまり興味がないようです。
「またかくれてよ!」
息子は通りではしゃいでいます。私はその虫を後にしましたが、なんとなくつけられているような変な気持ちでした。

その夜旦那にまたあの虫を見たことを話しました。先日のスピリチュアル話ですっかり見えない力やエネルギーにハマっていた私たちは、これはきっと違う世界から来たものに違いないという結論に至ったのです。それで今度はそんな世界の話をしていて、私は途中トイレに立ちました。するといたんです、あの虫がまた。今度は洗面台のガラスに止まっていました。お風呂場のスポットライトを浴びて、虫の体は透け通りそうなくらい薄い色になっています。

「まただ!」
私の小さな叫び声を聞いて、旦那がお風呂場にやって来ました。私が指差す方を見て、旦那も驚いたような顔をしています。顔を虫に近づけて観察。ただでさえ大きな頭ですから、小さな虫にはぎょろりとした目のついた家具かなんかに見えたかもしれませんね。

しばらく観察したのち、旦那が宣言しました。
「これはこの世界のものじゃない。きっと僕たちの話を聞きに来たんだ!」

その宣言を聞いていたのかいないのか、それ以降私たちはあの虫を見ていません。もしかしたらドイツでは一般的な虫なのかもしれません。それでも綺麗なグミガムキャンディのように半透明に光を通すあの虫は、私たちと別な世界を結んでいるような、そんな不思議な気持ちにさせてくれました。


『そらからきたこいし』の作者紹介:


しおたにまみこ
1987年、千葉県生まれ。女子美術大学工芸学科卒業。背景美術制作会社勤務を経て、絵本作家となる。はじめて制作した絵本『やねうらおばけ』が、2014年第15回ピンポイント絵本コンペ優秀賞を受賞。繊細な鉛筆画で描き出す独特の世界が、読者を引きつける。作品に『そらからきたこいし』『やねうらべやのおばけ』(ともに偕成社)などがある。東京都在住。


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