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【絵本レビュー】 『かみなり』

作者:内田麟太郎
絵:よしながこうたく
出版社:ポプラ社
発行日:2008年12月

『かみなり』のあらすじ:

とつぜん、やぶいしゃのそばにかみなりさまがおちてきた。「けがをしたから、ちりょうをせい。さもないと、ひきさいてやる!」かわいそうなやぶいしゃ…そのうんめいや、いかに。


『かみなり』を読んだ感想:

幸いまだヤブ医者というものに出会ったことはありませんが、私は基本的に医者が苦手です。医者が苦手というより、医者に行くのが苦手です。なんだか悪いことを言われそうで怖いのです。歯医者も苦手です。子供の時に行っていた歯医者に比べとても優しいので申し訳ないのですが、やっぱり苦手です。握っている手に嫌な汗をかきます。

数年前に誕生日プレゼントにマッサージのクーポンをもらいました。私は筋金入りの肩こりなので嬉しくていそいそと訪ねて行ったわけですが、さて着いてみるとなんだか不思議な場所でした。広いサロンなのに空っぽで私以外お客さんはいません。迎えてくれたのはアジア人っぽく見える女性とやはりアジア人っぽく見える男性でした。オフィスの待合室のようなソファに座り、渡されたフォームに記入し終わると、女性について長い廊下を通って奥の部屋に行きました。

まるで医者の診療所のような部屋には、先ほどの男性がいて私の脈を取りました。彼はドイツ語ではなくロシア語を話していたようです。彼が言うこと全ては女性を通して私に伝えられました。建物の外観が行われていたために薄暗い診療所で二人のロシア語を話す人たちと座っている私は、全くもってロスト・イン・トランスレーション状態でした。

女性はドイツ語で訳してくれるのですが、私のドイツ語もたどたどしく、さらにドキドキ。男性は私の脈を診ているのですから、これが診断に影響するのかしらなどと不安になっていると、
「最近子宮に問題はありましたか」
と聞かれました。はて、そんな覚えはないのですがと思いつつ、
「一年前に子供を産みましたが」
そう応えても無表情の男性の顔に私はさらにドキドキ。

まあとりあえず施術にということで、マッサージルームの一つに案内されました。少なくともマッサージルームは整体サロンくらいには見えたので一安心。でも女性が毎回一緒に来るのは、パンツ一丁でいる私としてはちょっと居心地が悪かったのですが、これからどんなマッサージをするのかを説明してくれるのですから文句は言えません。

男性がしてくれたマッサージは、お灸、ホットストーン、カッピングと指圧以外はどれも初めてのものでした。私はこの広い薄暗いフロアーに怪しい二人組と素っ裸でいることの不安が払いきれず、あまりリラックスできてはいなかったのですが、それでもだんだん身体が緩んでいくのが感じられました。

一時間半ほどの施術が済むと私はぼんやりしていて目が霞んでいました。コンタクトをしたまま昼寝をしてしまった、あの感じです。着替えて最初のソファに戻るとお茶が用意してありました。反対側にはやっぱり女性と男性が座りました。男性はタバコを吸っています。二人は何やらロシア語で話しており、私は一刻も早くそこから出たくて急いでお茶を飲もうとしましたが、熱くて一気に飲めません。

「好きなだけゆっくりして行ってくださいね」
私の心を読んだかのように女性が言いました。なんのお茶だかわかりませんが、手足が痺れたりしないといいななんて妙なストーリを私は想像していました。

二人に見られながらお茶を飲み干すと私は荷物を持って立ち上がりました。
「私たちはいつでもここにいますから、また電話してきてください。」
そう言われて私は出てきました。外に出ると逃がさんさんと照っており、今までの静寂が嘘のようにたくさんの人が歩いていました。

家に帰ると私の背中には真っ赤な丸い跡がくっきり残っていました。なんとも不思議な体験でした。そしてさらに不思議だったのは、その跡少しして行った婦人科の定期検診でポリープがなくなっていると言われたのです。そう言えば妊娠中にあるわねと言われていたのでした。それが綺麗さっぱり無くなっていたのです。その時はこの不思議なマッサージ師との関係を考えませんでしたが、その後半年ほど経って私はまたあの不思議な二人組に連絡を取ってみようと思ったのです。

ところが誰も電話に出ません。ウェブサイトも無くなっています。あの二人は消えてしまいました。私は本当にあそこへ行ったのでしょうか。薄暗い部屋を私は覚えています。なんだかわからないお茶の味も覚えています。でもまるで夢だったかのように、跡形もなく消えてしまいました。

それで私は別のチベタンマッサージ師を探しました。やはりロシア生まれの人を見つけたので行ってみたのです。
「どうしてここをみつけたの。」と聞かれ、私はあの不思議な二人組の話をしました。するとなんと、あの男性はこのマッサージ師の友人だったのです。ただ一年ほど前に病気で亡くなったと教えてくれました。私が訪ねて少し後のことのようでした。だからウェブサイトもなくなっていたのですね。

でも新しいマッサージ師によると、あの男性は凄腕だったそうで、色々と難しい病気を治すことで有名だったのだそうです。もしかしたらポリープを消したのも彼だったのかもしれません。残念な話です。

私の不思議な医者体験でした。


『かみなり』の作者紹介:

内田麟太郎
1941年福岡県大牟田市生まれ。個性的な文体で独自の世界を展開。『さかさまライオン』(童心社)で絵本にっぽん大賞、『うそつきのつき』(文渓堂)で小学館児童出版文化賞、『がたごと がたごと』(童心社)で日本絵本賞を受賞。絵本の他にも、読み物、詩集など作品多数。 他の主な作品に「おれたち、ともだち!」シリーズ(偕成社)、『かあさんのこころ』(佼成出版社)、『とってもいいこと』(クレヨンハウス)、『ぽんぽん』(鈴木出版)などがある。



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