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【絵本レビュー】 『へたなんよ』

作者:ひこ・田中
絵:はまのゆか
出版社:光村教育図書
発行日:2017年3月

『へたなんよ』のあらすじ:

おばあちゃんは、いろんなことがへたなんよ。せやから私が代わりにしてあげるん。私は、おばあちゃんのへたなところが、好き!


『へたなんよ』を読んだ感想:

「ママ、はしるのへただから」
最近息子に言われました。小学校六年間リレーの選手で大学に入ってからトライアスロンのトレーニングをしていた(誇り高い)身には、ちょっと傷つくコメントですが、確かに年々私は走らなくなっています。「競争しよう!」と声をかけられるたびに「え〜、荷物あるし」とか「え〜、疲れてるもん」などと言い訳をして走ることを避けているので、「へた」と言われるのも無理はないですね。

それにしてもおばあちゃんになると、どうしてああも寛容になるのでしょうね。うちの息子が怒っても、「おばあちゃんへた〜」と言っても私の母はケラケラ笑うだけ。「自分の子じゃないから気楽」とやはり孫を持つ近所のおばさんが言っていましたが、それにしたって泣き止まなかったり、けなされたりしたらカチンとくることもあるでしょうに、おばあちゃんはただ笑うだけです。それでいつも言うんです。
「〇〇は上手にできるね」
「〇〇はすぐ覚えるね」
「〇〇はよく覚えてるね」
そうすると息子もまんざらでもなさそうにまたおばあちゃんとの会話を続けるのです。

私たちはいつから下手なこと、できないことにばかり焦点を置くようになってしまったんでしょう。これもできない、あれもできないと自分自身にイライラして、周りを見るとみんな軽くこなしているように見えてさらにイライラ度が増します。

本当にできないことばかりなのでしょうか。私だってできることがあるはずです。できることはできて当たり前だから、できても自分を褒めないのでしょうか。昨日できなかったことが今日もできないかもしれないけど、昨日よりは少しできるようになっているのではないでしょうか。

私にもこんなおばあちゃんがいました。小さな頃は遠くから一人で訪ねてきてくれて、私が何を言っても「そうだね」ってニコニコしていました。小学校に上がってから急に会わなくなって、それから何回か電話で話したけれど、私は最後におばあちゃんに言った言葉は、

「パパが犬かっちゃダメっていうの。パパに犬かってもいいっていうようにいって!」

でした。その時もおばあちゃんは、
「そうか。犬、飼いたいんだねえ。」と優しく言ってくれました。そのあと父が受話器を取って、大人の会話になってしまったのですが、これが私とおばあちゃんの最後の会話となりました。

数年前連絡先を見つけ出し、親戚の人と何十年ぶりに話すことができたのですが、おばあちゃんは私たちとの最後の会話の後十年ほどしてなくなったそうです。

だから私には今、ウンウンと笑って頷いてくれるおばあちゃんはいませんが、私自身も自分に優しくないなと気づいたのです。昨日より今日の私は一ミリ成長しているはずです。成長していなくても今日もチャレンジしようとする姿勢に「偉いね」って言ってあげてもいいのではないでしょうか。

私下手なんね、でも上手にできることもあるんよ。


『へたなんよ』の作者紹介:

ひこ・田中
1953年、大阪府生まれ。児童文学作家、評論家。『なりたて中学生』(講談社)で、第57回児童文学者協会賞受賞。 主な作品に『お引越し』『ごめん』(ともに、福音館書店)、『ハルとカナ』(講談社)など、評論に『大人のための児童文学講座』『ふしぎなふしぎな子どもの物語』などがある。


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