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【絵本レビュー】 『つきのぼうや』

作者/絵:イブ・スパング・オルセン
訳:やまのうちきよこ
出版社:福音館書店
発行日:1975年10月

『つきのぼうや』のあらすじ:

空の上にいるお月さまが地上の池の水に映ったお月さまを連れてきてほしいと、月のぼうやにお願いしました。月のぼうやは、星をけとばしたり、飛行機に会ったり、鳥にかこまれたり、お月さまに似ている風船やボールを見つけたり、冒険をしながら地上におりてきます。月のぼうやは、魚たちがすむ池にお月さまを探して飛びこみ、そこで小さな鏡をみつけます。ぼうやは空にいるお月さまに地上のお月さまを連れてかえることができるのでしょうか?


『つきのぼうや』を読んだ感想:

この絵本で一番好きなのは、つきのぼうやが鏡をのぞき込んで、
「わあ、なんてかわいらしいおつきさまだ!」と言う場面です。

子供の時から「まんまる顔」と言われ続けてきた私には、とても親近感があります。お月さまがまん丸だとみんなありがたがるのに、人の顔のことを言う時にはなぜかネガティブな感じを含むのはなんででしょうね。でも、ぼうやが「なんてかわいらしい」と言うのを聞いて、とても微笑ましく思えました。

一人誇らしげに空に浮かんでいるお月さまも一人でいるのはやっぱり寂しいんですね、ということに気づかせてくれる絵本です。話し相手ができて「おつきさまはとてもしあわせです」とありますが、「そうだろうとも!」と私は頷きながら読みました。

私は一人っ子で、その上あまり社交的でない父親に育てられたので、週末でも一人で遊ぶことが多かったです。父がいても遊んでくれるということもなく、私はやっぱり一人で遊びました。一人でもごっこ遊びをしたので、当然私が複数役をします。よくしたのは探検隊。庭はジャングルと化し、私は生き残った(何からだ?)数人のメンバーとともにジャングルを歩き回り、そこらへんに生えているものを一か八かで料理し飢えをしのぐ、というものでした。複数役をこなしていたので、はたから見たら私は一人でいつもブツブツしゃべっている子だったと思います。

私たちの家の後ろには二階建ての木造アパートがありました。そこにおばあさんが一人住んでいて、家の脇の道を行ったり来たりするのをよく見かけました。その時でおそらく7、80歳くらいだったでしょうか。いつも髪を束髪にまとめ、なんだかよくわからない油の匂いをプンプンさせていたので、おばあさんの姿を見なくても横を通ったことがわかるくらいでした。ある日おばあさんは私の姿を庭に見つけ、足を止めて話しかけてきました。子供の私に対しても、とても丁寧に敬語で話してくれました。一人で住んでいること、息子さんは遠くに住んでいてほとんど会わないこと、髪の毛が腰まで届くほど長いことなどを話してくれました。話はさらに続き、家にはお風呂がないこと、アパートの家賃、年金の金額など子供の私にはちんぷんかんぷんなことも教えてくれました。堰を切ったよう、とはまさにこのことだとは、もっと大きくなってから気づいたことですが、あの時あのおばあさんは人恋しかったのかなと、勝手に想像しています。

そのあと何度か近所の銭湯でそのおばあさんを見ました。誰と話すでもなく、一人でさっさと入って出ていくのを私は風呂場の反対側から見ていました。話していた通りの長い長い髪の毛を、櫛で梳きながら丁寧に洗っているのが印象的でした。その後私たちは引っ越してしまい、それから数年したら私たちの家も裏のアパートも潰されて、コインパーキングになってしまいました。あのおばあさんは一体どうなったのでしょうか。遠くに住んでいる息子さんの近くに行かれたのでしょうか。

私は一人でいる時間が大好きだけれど、気の合う友達とお話しする時間も大切ですよね。ベルリンは今もロックダウンが続き多くの人で集まったりできないし、多くの飲食店も持ち帰りのみでゆっくりくつろぐということはできません。また、感染を避けるためにあまりいろんな人に会わないようにしているのも現状です。でもどんなに社交的でない人でも人恋しくなる時ってありますよね。話すことで気持ちが軽くなることだってあると思います。おつきさまの寂しい気持ちがちょっと感染ってメランコリーな夜となりました。

『つきのぼうや』の作者紹介:

イブ・スパング・オルセン(Ib Spang Olsen)
1921‐2012。デンマークのコペンハーゲン生まれ。王立美術大学でグラフィックアートを修めた。こどもの本のイラストレーション、アニメーション、陶器デザイン、ブックデザイン、ポスター・アート、舞台装置など活動の範囲は広く、デンマークを代表する芸術家として知られる。1972年国際アンデルセン賞、1976年にデンマークのインダストリアル・グラフィックデザイン賞受賞など、多数の受賞歴がある


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