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【絵本レビュー】 『おしいれのぼうけん』

作者:ふるたたるひ
絵:たばたせいいち
出版社:童心社
発行日:1974年11月

『おしいれのぼうけん』のあらすじ:

お昼寝前に、ミニカーのとりっこでけんかをしたさとしとあきらは、先生に叱られておしいれに入れられてしまいます。そこで出会ったのは、地下の世界に住む恐ろしいねずみばあさんでした。 ふたりをやっつけようと、追いかけてくるねずみばあさん。でも、さとしとあきらは決してあきらめません。手をつないで走りつづけます―。

『おしいれのぼうけん』を読んだ感想:

お仕置きが押入れの中というのに昭和を感じましたが、お仕置きはよくありましたね。私の小学校では忘れ物をするとムチでお尻をぶつ先生がいて、「ケツピン」と呼んでいましたが、時に男子のお尻にミミズ腫れができていることもありました。今だったらかなり問題になりそうですね。

ドラえもんを見て育ったせいか、押入れは私の好きな場所でした。小学校の時に住んでいた私の部屋には半畳の押入れがあって、私はよくそこに篭りました。ある時は洞穴、またある時は雪山に建つ山小屋。懐中電灯を持って入り、外の嵐をやり過ごしたり、森で取ってきた木ノ実を焚き火(懐中電灯の光)で調理して食べたりもしました。そして時に押入れは日本昔ばなしに出てくるような貧しい家となり、懐中電灯は菜種油の灯りとなって、その薄暗い明かりの中で私は学問に励みました(本を読んでいるだけ)。

押入れは隠れ場所でもありました。父親に怒られて泣きながら、お気に入りのぬいぐるみたちを持って閉じこもったことも何度もありました。泣き疲れて眠ってしまったこともありました。私にとって押入れは、怖い場所ではなく安全な場所でした。だから最後に押入れが子供達の素敵な遊び場になって、私はちょっと嬉しかったです。

そして何よりホッとしたのは、先生が閉じ込めたことを子供達に謝ったこと。私は母にお仕置きをされたことがありません。「お仕置きして謝らせても意味がない」というのが彼女の持論だったようです。私の父は怒鳴る、罵る、ぶつ、約束を反故にするが専門だったので、私は二つの両極端な事例を体験して育ちました。お仕置きは、私が二十歳を過ぎても止まず、日本を出たのもそれが原因であったのですが、二年前父が亡くなる直前に意を決して会いに行ったのは、父からの謝罪を期待していたからだと思います。でも現実は絵本の先生のようにはいかないのでしょうね。結局父は、お仕置きや体罰などなかったことにして逝ってしまいました。「ずるい」という気持ちだけが、私の中に残ってしまいました。でも父に限らず、大人になると謝るのが難しくなるのかもしれない、と思います。謝ることは自分の非を認めることでもあるけれど、自分を変えることにもなります。それまでの考え方や行動を変えなくてはならない。その期間が長ければ長いほど難しくなるんでしょうね。

私も父の二の足を踏まぬよう、今から頭と心のストレッチをしておくことにしましょう。

『おしいれのぼうけん』の作者紹介:

ふるたたるひ(古田足日)
1927 年愛媛県生まれ。早稲田大学露文科中退。児童文学作家・評論家。東京在住。主な作品に『おしいれのぼうけん』、『ダンプえんちょうやっ つけた』(いずれも童心社)、『ロボット・カミイ』(福音館書店)、『モグラ原っぱのなかまたち』(あかね書房)、『新版 宿題ひきうけ株式会社』、 評論『児童文学の旗』(いずれも理論社)、最新刊に評論『現代児童文学を問い続けて』(くろしお出版)など多数。


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