【絵本レビュー】 『キラキラっとほしがかがやきました』
作者/絵:宮西達也
出版社:ポプラ社
発行日:2018年10月
『キラキラっとほしがかがやきました』のあらすじ:
友達にうらぎられ、心も体もきずだらけだったティラノサウルスは、ひとりぼっちで生きてきたさびしがりやで心のやさしい恐竜、デイノケイルスのディケルにであいます。ディケルと過ごすうちに、ティラノサウルスは信じること、友達の温かさ、強さ、相手を想う気持ちを知ります。
『キラキラっとほしがかがやきました』を読んだ感想:
うちの四歳児が大好きなティラノサウルスシリーズです。私はあまり読みませんが、母がねだられて何度も何度も読んでいます。「ティ」の発音ができない母が読むので、息子も「テラノザウルス」と言うのが面白くて修正していませんが、いつか本人が気がついて直してくれたらいいです。
さて、絵本です。
友達に裏切られたことはありますか?
友達を心から信じることができますか?
以前書いたことがありますが、小学校の時の私には「親友」と呼べる友達はいませんでした。仲良くなったと思っても、先生が「二人組で」と言った途端私は一人になることが多く(女子は十一人でした)、友達作りに専念していた日々の努力が全く報われないことにがっかりしました。友達だと思って貸したお金がしばらく戻ってこなくて、「返して欲しい」と言ったらクラス中に聞こえるように、「たかが数十円を返せって言うなんてケチだよね」と言われてしまったことにショックを受けたこともあります。私はお小遣いをもらっていなくて、貸したお金は緊急時の電話代だったのに。。。
色々な些細な経験から「友達」と言う名目にすら疑いを持つようになって、中学に入ってからは「独りでいい」と思って行動していました。何を持って「親友」って言うんだろうと言葉の定義を探したこともありました。親友バッチみたいのを交わすんでしょうか。
一度持ってしまった不信感を取り戻すにはどうしたらいいんでしょう。疑い深くなってしまって、真意を持って近づいてくる人を突き返してしまうことってありますよね。本当は一緒にいて欲しいのに。まさにティラノサウルスそのままですね。
そんな私が選んだ生き方は、「人は助けるけど私のテリトリーには入れない」でした。いつでも「私は大丈夫」という仮面をつけて、私の中に人が入って来ないようバリアを作っていました。そうしておけば、私は傷つかないから。
ある日、母が実家に届いた年賀状を数枚送ってくれました。今でも毎年私に年賀状を送ってくれる友人がいるのです。その一枚は大学の友人からでした。そこに書かれていた言葉に私は心を打たれました。
彼女はハガキの中で、人生でとても辛い時を過ごしていたこと。そしてその時私が彼女にかけた言葉にとても心が軽くなったことをいかに感謝しているかを伝えてくれました。実のところ私は彼女に何を言ったか覚えていません。でも彼女にとってはとても大事な言葉で、そのあと数年もそれを心に大切にしまっておいてくれていたのです。
私は、他の人たちに対して心を開いていないことを確信していたし、いつも周囲の人は頼れないというスタンスを意識的に保っていたので、私が誰かにとって重要であるということに気がついていませんでした。私の言った言葉を宝のようにしまっておいてくれている人がいることを、想像すらしていなかったのです。
問題は、もしかしたら周囲の人が信用できないことではないのかもしれない。そう思いました。問題は、相手が信用できないとわかった時に、信用うしていた自分を嫌いになってしまうこと。そしてそんな人のために、周囲の人全員を信用できない存在として分類してしまうことになるような気がするのです。世の中にはいろんな人がいます。私を騙そうとする人もいるでしょうし、自分の都合のいいように利用しようとする人もいるでしょう。それは仕方のないことです。でも、私のことを心から慕ってくれる人、心底思ってくれる人がいることも事実です。そんな人さえも追い払っていいのでしょうか。私は一生誰も信用せずに独りで生きていくことができるのでしょうか。
ディケルの手を振り払って崖から落ちていったティラノサウルスが死ななかったことを、私は心から願います。相手を信用することは悪いことではないということを、ティラノサウルスに気づいて欲しいからです。信用できない人とはさっさと縁を切る勇気と、真意を持って接してくれる人を受け入れる大きな心を持つこと。こんなことを学んだ一冊でした。
『キラキラっとほしがかがやきました』の作者紹介:
宮西達也
1956年、静岡に生まれる。日大芸術学部美術学科卒業後、人形美術、グラフィックデザイナーを経て絵本を描きはじめる。
絵本・童話・紙芝居・プラネタリウム・イラスト・エッセイなども手がけている。講談社出版文化賞「絵本賞」、けんぶち絵本の里大賞「大賞」「びばからす賞」、その他受賞作多数。