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【絵本レビュー】 『かあさんまだかな』

作者:イ・テジュン
絵:キム・ドンソン
訳:チョン・ミヘ
出版社:フレーベン館
発行日:2005年10月

『かあさんまだかな』のあらすじ:


かあさんは、いつになったらかえってくるの?
寒さで鼻の頭が赤くなっても、
坊やはその場を動こうとしません。
坊やには、ただひとつ、
“かあさんへの思い”だけが…

風が吹いても、
電車が行って帰ってきても、
ここでじっと待っています。

『かあさんまだかな』を読んだ感想:


この絵本は、旦那からのプレゼントでした。当時二歳になるかならないかくらいだった息子に毎日絵本を読む私にと、買ってくれたのです。セピア色の木造の家々が並ぶ街の風景から始まるこの絵本は言葉少なで、それでも一ページ一ページが心に沁みるのです。

路面電車のプラットフォームに登るのに、手をついてよじ登らなければならないほど小さな男の子は息子の姿と重なって、「お母さん、早く来てあげて!」と叫びたいのを抑えながら読みました。鼻が赤くなるほど寒い日に、男の子は一体何台の路面電車を待ったのでしょう。誰かに連れて行かれちゃうんじゃないか、電車に乗ってしまうのじゃないかと、絵本の中に手を入れて抱きしめてあげたいような、そんな気持ちになるのでした。

私は子供の頃のことを割と覚えているのですが、最近母親と確かめたところ、そんなことまで覚えているのと驚かれたので、私の想像ではなかったのだと安心しました。

ある日、母親は私をぎゅっと抱きしめて、「帰ってくるからね」と言うと家を出て行きました。私は大きな窓の前に座り、入ってくる明かりをぼんやり見つめていました。部屋の中には誰もいませんでした。私が喋れたのかどうかは覚えていません。私はただ、部屋の真ん中に一人で座っていました。後ろには本棚がありましたが、私が読むようなものではありませんでした。他に部屋があったのかどうかも覚えていません。私は置かれた場所に静かに座っていました。

時間の感覚なんてありませんから、一体どのくらい待っていたのかはわかりません。ただ窓の外から入ってくる明かりがだんだん柔らかくなり、次第にオレンジ色になり、やがて部屋は薄暗くなりました。私はスイッチを押すと電気がつくことは知っていましたから、スイッチを押そうとしましたがどんなに背伸びをしても届きません。私がどれくらい小さかったのか、それで大体想像がつきます。

私は薄暗いのが怖くて、寂しくて、床に座って鳴き始めました。さっき抱きしめてくれた人を待っていたんだと思います。どれだけ泣いていたのかはわかりませんが、急にドアが開いて誰かが入ってくるとまた私を抱きしめてくれました。
「ごめんね。もう大丈夫。」
部屋は真っ暗でその人の顔はよく見えませんでした。でもやっと、私はまた抱っこしてもらえたのです。

母親に聞いたところによると、私がいた部屋は私たちが住んでいたアパートではなく、それに隣接していた小部屋で、父がオフィスのように使っていたのだそうです。なぜ私が一人でいたのか、母親はどこへ行っていたのかはわかりません。でも窓の明かりがだんだん消えて行くあの感覚を、私はなぜかよく思い出すのです。

男の子のお母さんは帰って来たのでしょうか。帰って来たらやっぱり「ごめんね」って言ったのでしょうか。


『かあさんまだかな』の作者紹介:


イ・テジュン( Lee Tae-Jun)
1904年韓国江原鉄道原郡生まれ。幼いころから文学に優れた才能を見せ、朝鮮純文学の最高峰として広く知られる。童話や児童文学を数多く執筆しており、美しい文章、温かな眼差し、細やかな感情描写で親しまれている


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