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【絵本レビュー】 『こすずめのぼうけん』

作者:ルース・エインズワース
絵:堀内誠一
訳:石井桃子
出版社:福音館書店
発行日:1977年4月

『こすずめのぼうけん』のあらすじ:

子スズメはお母さんから飛び方を教わりました。羽根をぱたぱたやっているとちゃんと空中にういているので、子スズメはおもしろくなってどんどん遠くまで飛んでいきました。そのうちに羽根が痛くなったので休もうと思いましたが、ようやく見つけた巣にはカラスやヤマバトやフクロウがいて、中に入れてもらえません。やがてあたりは暗くなって……。

『こすずめのぼうけん』を読んだ感想:

今朝もベランダに出るとスズメが寄ってきます。どうやら顔を覚えているようで、私がベランダに出るたびに鳴いて近くまで寄ってきます。時にはかなり近くまで飛んできて、さすがにまずいと思うのか飛び去っていくのです。もちろん私の人柄ではなくて、お鍋に張り付いてカピカピになったご飯が目当てなんですけどね。

幼稚園へ行くその朝、私はいつものようにマンションを出て、屋根のあるところで送迎バスを待っていました。私はそこをグルグル走って遊んでいたのですが、入り口横の植木鉢から何やらピヨピヨ聞こえてきます。不思議に思って近寄ると、小さなスズメが鳴いているではないですか。かろうじてスズメとわかったのは、大きさと薄茶色ながらも見え始めていたその模様でしたが、まだ幼いらしく羽はポワポワとしていました。

私は小鳥をそっと手に取ると、母に知らせに行きました。なんと母は鳥嫌いで、私の手の中にあるものを見た途端大きな声で「ひゃっ!」と叫んだものですから、私は小鳥を落としてしまいました。なんだか汚いものでも持っていたような気がしたのです。「ごめんごめん、びっくりした」という母の言葉で我に返って、再び小鳥を拾いあげました。

幼稚園のバスも来てしまうし、幼稚園へ連れて行くわけには行きません。二人でどうしようかと手の中のふわふわを眺めていると、母にある考えが浮かびました。マンションの下のラーメン屋さんに預けておこうというのです。そこなら食べ物もあるし、きっと子すずめはお腹が空いて巣から落ちたのだろうというのが、母の推理だったのです。

私たちは朝の仕込みをしているラーメン屋さんに入って行きました。店長さんはスズメを見ると同じことを言いました。
「お腹が減ってるんだよ」
それで私は安心しておじさんに小鳥を手渡すと、丁度到着した送迎バスに乗って幼稚園に行きました。もちろん、私は一日中その子すずめのことを考えていました。

長かった一日が終わり、他の子供たちを送りに迂回して行く送迎バスにイラつきながらも、ようやく私は家に着きました。マンションの前で待っていた父への挨拶もそこそこで私はラーメン屋に走ったのです。午後でしたからもう数人お客さんもいましたが、私は大きな声で聞きました。
「すずめはどこ?」

すると驚いたことにおじさんは言うのです。
「ご飯あげたら元気になって飛んでったよ」

お店にあの子すずめはいませんでした。私は子供ながらに何か辻褄が合わないと思いながらも、他に聞くすべも知らず外で待っていた父のところに行きました。私が手にした小鳥はまだ飛べるような状態でなかったことは確かです。お腹がいっぱいになったところで、飛べるようになったとは思えません。なのに父まで「よかったなあ」なんて言うのです。変だと思ったのは私だけなのでしょうか。

一体あの子すずめがどうなったのか、私は知らされませんでした。だんだん大きくなっていっても、あの小鳥のことがなぜか気になりました。それでも成長につれてだんだんと状況も見えてきました。食事を作る場所で鳥など置いておけないこと。小さな小鳥はラーメンなんて食べないこと。おじさんたちが虫を捕まえてあげたとは考えづらいこと。巣がどこにあるのかわからないこと。おじさんたちが捨ててしまったのかもしれないこと。巣から落ちて弱っていて、死んでしまったかもしれないこと。

こんなことを色々考え、どんな過程を踏んだにしても子すずめは生き延びなかったのだろうと考えるようになりました。自然は酷だけれど、生き残るものだけが生き残って行く。そんなことをすずめは教えてくれたのでした。


『こすずめのぼうけん』の作者紹介:


ルース・エインズワース(Ruth Gallard Ainsworth)
1908年、イギリス、マンチェスターに生まれた。子どものために二冊の詩集を出版。後に、BBCラジオ番組“Listen With Mother”のために、いくつかの物語を書いた。主な作品に『こすずめのぼうけん』『ちいさな ろば』『黒ねこのおきゃくさま』『ふしぎなロシア人形バーバ』(以上、福音館書店)、作品集に『ねこのお客―かめのシェルオーバーのお話1』『魔女のおくりもの―かめのシェルオーバーのお話2』(河本祥子訳・絵/ともに岩波書店)などがある。1984年逝去。


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