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【絵本レビュー】 『ジャッキーのパンやさん』

作者:あいはらひろゆき
絵:あだちなみ
出版社:ブロンズ新社
発行日:2003年2月

『ジャッキーのパンやさん』のあらすじ:

バザーの日には、おいしいかぼちゃパンをやこうと、みんなできめました。ほくほくのかぼちゃ、バターミルク、ハチミツにこなをくわえて、ねって。さあ、ほかほかのやきたて!と思ったら、ジャッキーがパンの上にダイビング?! 


『ジャッキーのパンやさん』を読んだ感想:

パンにダイブ。
ジャッキーの気持ちよくわかります。ダブルベッドくらいの大きさのパンがあったら、私もしていると思います。焼きたてだったらきっと穴を開けて中で寝ると思います。焼きたてのパンの匂いに包まれて寝られるなんて、こんなに幸せなことはないと思います。

大学に入った頃からご飯嫌いになった私は、パンをよく食べていました。近所のパン屋に飽きると、電車で途中下車してフラフラ歩いてパン屋を探したものです。ドイツの黒パンに憧れて、どこかのデパ地下のドイツパン屋でやっと手に入れたのですが、食べてみると食感が想像と違いとてもがっかりしたのを覚えています。あの時はひどいパンだと思ったのに、食べてもお腹が張らないので今では大好きです。

その大学時代、パンを自分で焼き始めました。うちには大きなオーブンがなくて、長方形の一人用グラタン皿がやっと入るくらいのオーブントースターしかなかったのですが、スコーンやベーグル、最後の方はバゲットにも挑戦しました。オーブンとはいうもののトーストを作るのが主な役割なので電熱線が近く、スコーンが膨らんでくると焦げやすくなるのが難点でした。時間を見計らって素早くアルミホイルを滑り込ませる技も身につけました。

私がパンを焼いたのは土曜の夜中でした。夜更かしの母も寝て、お風呂にも入った夜中の十二時から開店するのが常でした。当時夜中の十二時半か一時になるとアメリカのテレビドラマがやっていて、毎週それを見ながら生地を練ったり、練った生地が膨らむのを待っていました。両親は寝ているし、家も静まり返っていて、私は毎週その時間がとても楽しみでした。パン屋焼きあがると大抵三時過ぎていて、私はパンの匂いに包まれたままベッドに入りました。起きたらあのパンを食べるんだと思うととても楽しみで、明日がとても楽しみでした。と言っても私が起きたのはいつも正午近くになってからでしたけど。

起きると作ったパンの半分は消えていました。父が食べたのです。発酵がうまくいかなかったり、オーブントースターの火加減がうまくいかなかったりして生っぽい仕上がりになったこともありました。焦げていたことなんて数え切れないくらいあったけど、どんなパンでも父は食べました。本当に美味しかった時は、私が起きてきた時すれ違いざまに「うまかったぞ」と言ってくれました。それは「かなり美味しかった」という意味だと私は理解していました。父はそう簡単に褒める人ではなかったからです。

ある時母が友達と持ち寄りパーティーへ行くことになった時、私にスコーンを作るよう頼んできました。友達はみんな料理の上手な人たちで、料理が好きではない母は、彼女たちに負けたくないと思ったのでしょう。それで私はいつもの倍焼きました。綺麗に膨らんだものだけを持たせてあげて、父と私は不恰好なものを食べました。母は得意げな顔をして帰ってきて、スコーンがとても人気で全部なくなったと教えてくれました。私も母の友達のケーキの腕を知っていましたから、それを聞いてまんざらではありませんでした。

もう何年もパンを焼いていません。でもこぐまのジャッキーを見ていたら、また焼きたいなと思い始めました。

『ジャッキーのパンやさん』の作者紹介:

あいはらひろゆき
1961年仙台市生まれ。長女の誕生をきっかけに絵本作家としてデビュー。 代表作は「くまのがっこう」シリーズ(ブロンズ新社)、「はっはっはくしょーん」(カドカワ)など。 2020年には自らの絵本を出版する「サニーサイドブックス」を設立。白百合女子大学講師。


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