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【絵本レビュー】 『ぼくびょうきじゃないよ』

作者:角野栄子
絵:垂石眞子
出版社:福音館書店
発行日:1994年8月

『ぼくびょうきじゃないよ』のあらすじ:

明日は釣りに連れていってもらう日なのに、ケンは熱が出て、布団に寝かされてしまいました。するとドアをとんとんとたたいて、白いお医者さんの服を着た大きなクマが入ってきました。


『ぼくびょうきじゃないよ』を読んだ感想:

遠足の前日に熱出しちゃう子、いますよね。

私は子供の時すごく風邪をひきやすくて、小児科に本当にしょっちゅう通っていました。あまりしょっちゅう行っていたので、ちょっとくらいの風邪だと「レモンの入った温かいお茶をたくさん飲みなさい」と言って帰してくれました。

そして私の父はもちろん「ティーポットでお茶を」というタイプではなかったので、私が先生からの伝言を伝えても興味なしでした。くましきならぬ父しき熱冷ましは、厚着をして布団の中に入り、ひたすら汗を掻くことでした。私はパジャマの上からトレーナーを着て、いっぱい汗が出るように手も中に入れ、首までしっかり厚い羽布団と毛布にくるまっていました。

じわじわと流れる汗を感じながら待っていると、父がマグカップを持ってやって来ました。「お茶かな」と詰まった鼻をヒクヒクしますが、甘いお茶の匂いもレモンの匂いもしません。その代わり、なんだか焦げた匂いがします。渡されたコップの表面には黒く焦げたものが浮いていました。

「焼き梅干のお茶だ」
父が得意そうに言いました。
「こうやって潰して、実も全部飲むんだぞ」
そう言って私に小さなスプーンを渡しました。

父は梅干を焦がして緑茶の中に放り込んだのです。どんなに頑張って黒いひらひらを避けようとしても必ず何枚かは口に張り付き、それをカップの口の周りに貼り付けていきます。口を薄くしても、どうしたって焦げが口の中に入ってくる。私はお茶お飲むというよりお茶と戦っていました。なので一体美味しいのかどうかすらわかりません。お茶を飲んでいるのに、突然塩気が口を満たす。そんなわけのわからない家庭療法となりました。先生が言っていた、「レモンの入ったお茶」とは似ても似つかない代物と雰囲気に、私は幼くして理想と現実のギャップを学んだのでした。


『ぼくびょうきじゃないよ』の作者紹介:

角野栄子
1935年東京都生まれ。早稲田大学教育学部英語英文科卒業。日本福祉大学客員教授。1984年に路傍の石文学賞を受賞。「おおどろぼうブラブラ氏」(講談社)でサンケイ児童出版文化賞大賞、「魔女の宅急便」(福音館書店)で野間児童文芸賞と小学館文学賞を受賞。絵本に「ケンケンとびのけんちゃん」(あかね書房)、「ぼくびょうきじゃないよ」(福音館書店)、童話に「ちびねこチョビ」(あかね書房)など作品多数。


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