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【絵本レビュー】 『みんながおしゃべりはじめるぞ』

作者/絵:いとうひろし
出版社:童心社
発行日:1987年5月

『みんながおしゃべりはじめるぞ』のあらすじ:

かくれんぼの真っ最中に、ぼくは石の声を聞いた。石がしゃべるなんて、はじめは信じられなかった。でも…。ここには壮大な宇宙がある、悠久の地球がある、生きる姿がある。


『みんながおしゃべりはじめるぞ』を読んだ感想:

子供の頃って今よりずっといろんなものが見えたり聞こえたりしていたように思います。大きくなるにつれ毎日「しなければならないこと」がどんどん増え、そんな小さな音に耳を貸さなくなったばかりか、移動中はヘッドフォンまでして自らそういう音を遮断していました。そして大人になった今は、もうすっかりそういう音があったことすら忘れてしまっているのです。そんなことに気づかされた絵本でした。

子供の頃、一人で家で留守番をしているとなんだかいろんな音が聞こえて来てすごく怖くて、父が帰ってくるまで一人で部屋にこもっていたことも何度もありました。新しく引っ越した家は二階建てで、リビングにいると突然「カタン」と変な音が二階の両親の寝室から聞こえて来ました。勘違いであってほしいという気持ちで無視したのですが、「コトン」また音がします。「泥棒だったらどうしよう」と最初は思ったのですが、そのあと頭をよぎったのが、「見たくないモノ」だったらどうしよう、でした。

しばらく縮こまっていたのですが意を決して廊下に出て、階段の下から叫びました。
「おーい、そこにいるのはわかってるんだぞー。今から上に行くからさっさと出て行ってよー」
そうして私はわざと一段一段大きな足音を立てて階段を登り、寝室のドアの前で、「ドア開けるからねー。帰るなら今だよー」と宣言してから大きな音を立ててドアを開けました。

し〜ん、と部屋は静まり返っていて何かがいた形跡もありませんでした。私はぐるっと部屋を見回して、「じゃあ、下に行くからね」と部屋に声をかけて出ました。

息子がまだ1歳にもならないある日、ハイチェアに座らせてご飯を食べさせていたのですが、台所に何かを取りに行って戻ってくると、息子がスプーンを天井の隅の方に向けているのが見えました。まるで誰かに食べてもらいたそうなその様子に気づき一瞬ゾゾっとしたのですが、息子はまるで知っている人であるかのようにニコニコしています。とりあえず悪いものではなさそうですが、「ああ、彼にはちゃんと見えているんだな」と感じました。その後もそういうことが何度もあったし、また寝室でも部屋の隅を不思議そうに見ていることもありました。私はその日、壁に向かって「お家さん、この子に親切にしてね」と頼みました。

最近の息子は公園よりも木登りや石拾いに夢中です。もしかしたらいろんなもののおしゃべりを聞いているのかもしれませんね。今度一緒に聞いてみるとしましょう。私のなまった耳で聞こえるでしょうか。

『みんながおしゃべりはじめるぞ』の作者紹介:

いとうひろし
1957年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業。独特のユーモラスであたたかみのあ る作風の絵本・挿絵の仕事で活躍中。おもな作品に 「おさるのまいにち」シリーズ(講談社刊、路傍の石幼少年文学賞受賞)、「ルラルさんのにわ」シリーズ(絵本にっぽん賞受賞)「くもくん」(以上ポプラ社刊)、「あぶくアキラのあわの旅」(理論社刊)、「ごきげんなすてご」シリーズ、「ふたりでまいご」「ねこと友だち」「マンホールからこんにちは」「アイスクリームでかんぱい」「あかちゃんのおさんぽ①②」「ねこのなまえ」(以上徳間書店刊)など多数。 「ふたりでまいご」の姉妹編、「ふたりでおるすばん」が徳間書店から11月に刊行予定!


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